誘惑の延長線上、君を囲う。
恋人みたいな過ごし方
「……ねぇ、日下部君、起きて……!」

「んー?……あれ、映画は?」

ふんぞり返って寝ていたベンチシートから上半身を起こしたが、完全に寝ぼけている。

「もう終わったよ。私達が最後だから急いで出よう」

日下部君をベンチシートから立たせた。大きなアクビをしている日下部君の背中を押して、半ば無理矢理にシアターから追い立てる。

レイトショーを見に行こうと自分から誘って来たが、眠くて寝てしまった日下部君。ラブミステリーものだったが断じて静かな音ではなかったはずだが、昨日からの寝不足には勝てなかったようだ。やけに熟睡していたから、普段からの仕事の疲れも出ていたのかもしれない。

そんな中、私に付き合ってくれている。どんな思惑から無理してまで付き合ってくれているのか?

「結末言わないでね!ブルーレイ出たらレンタルするから」

映画館を出て、コインパーキングまで歩く。その間に夕飯を食べる良いお店はないか吟味しながら、歩幅を小さくゆっくりと進む。

「……結末も何も中盤も寝てたよ」

「はぁ?寝てないし」

ギロリ、と鋭い目付きで私を睨む。まるで子供みたいに否定している日下部君が可愛らしく思えて、笑みがこぼれた。

「あ、良い匂い!ラーメン屋さん!」

「夕飯、ラーメンにする?」

「焼肉の匂いもして来た。串カツも食べたい……!」
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