誘惑の延長線上、君を囲う。
「佐藤さん、日下部さんって高校時代もこんな人だったんですか?」

「あ、ありがとうございます。いただきます。えっとね、もっと明るくて硬派なイメージだったよ」

私がネチネチと怒られているのを気にしてか、バイヤーの高橋さんが私にコーヒーをいれてくれたので受け取り、一口含んでから話し出す。高橋さんは海外に買い付けに行かない日は、本社勤務でネットから輸入雑貨の仕入れを担当したりしている。高橋さんは親しみやすく、時々、日下部君をいじる。

「余計な話はするなよ、佐藤」

「えー、いいじゃないですか、少し聞きたいです!」

日下部君は私を止めたが、高橋さんは昔話を聞きたくて目を輝かせている。高橋さんは私達が高校の同級生だとは知っているが、同居人だとは知らない。総務課の夫の高橋さんも守秘義務があるので、日下部さんか佐藤さんが話さない限りは言いません、と約束してくれている。

デートの後、日下部君は勝手に引越しの手続きなどを進めて、丸め込まれて7月中旬には引越しを完了した。私と日下部君と夫の高橋さんしか知らない秘密。
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