誘惑の延長線上、君を囲う。
「じ、地ビールって美味しいよね。今飲んでるのは一般的なビールよりも美味しいと思うなぁ」

小さな製造所で作られたクラフトビールと呼ばれる、生産者が選び抜いた麦が使われている地ビールも飲み放題なプラン。ここの地ビールはフルーティーな喉越しで飲みやすく、ほのかな甘みも感じて虜になりそう。

「そうだな。……酒、オカワリして来る」

返答に困り、はぐらかしてしまった。日下部君は、そんな私に対して溜め息を落とすとオカワリをしにバーカウンターへと向かった。

日下部君が本当に私をお嫁さん候補として見てくれているのならば、気持ちを素直に受け取りたい。しかし、日下部君からは『好きだ』とは言われないままに身体を重ねては、生活を共にしている。

たった一言なのに、日下部君の口からは聞けない。だから、いつまで経っても宙ぶらりんのままな関係。私から言おうにも、関係が壊れてしまう事を恐れてしまい、言い出せない。

日下部君が以前、無意識のままに口に出した『あきば』とは、秋葉さんの事だ。秋葉さんは私よりも年下で天然美人な女性らしい人。それに比べて私ときたら、酒好きだし、可愛げも無い30オーバーな人。自分で言うのも何だけれど、お肌は荒れてないと思うんだよね。それだけは自信がある。
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