愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

「俺にはねぇよ。そんなこと言われる資格。……だって俺は最初、お前を騙すつもりだった。海里が虐待されている動画を父親に渡そうとしていた。そのためにあのカメラをぬいぐるみにつけて、お前を監視してた。俺はそんなことをした最低な奴なんだよ。……だから、お前と一緒にいる資格なんてないんだよ」

「どうでもいい! お前に資格があるかどうかなんてどうでもいい! 俺がお前と一緒にいたいんだよ!」
 零次の腕を掴んで、俺は叫んだ。

 真実を知るのは少し怖かったけど、声を大にして叫んだ。
 真実を知ることよりも、コイツがいなくなることの方が何十倍も怖いと思ったから。

「……その言葉、全部知ったらきっと言えなくなるぞ」
 震えている俺の手を見つめて、零次は小さな声で口にする。俺はその言葉を正論にしたくなくて、泣きながら大声で否定した。

「ならねぇよ! 俺はずっと零次のそばにいる! ……お前がいなきゃ、生きていけないんだよ!!」

 俺がそう言うと、零次は俺の頭を撫でながら、目尻を下げて、悲しそうに笑った。

「……俺がいなくても、生きてけるよ」
「無理だよそんなの!!」

「……本当に、全部知りたいのか?」
「ああ、知りたいよ。……お前のことが、全部知りたい」
 俺がそう言うと、零次は作り笑いをして、俺達が出会うまでにあった出来事を話してくれた。

 俺は闇金の社長の子供だけど、アイツに望まれて産まれたわけじゃない。
 俺は母親にだけ産まれるのを望まれた。
 父親からは産まれたことを疎まれた。父親は顔を合わせるたびに俺に『なんでお前は生きてるんだ』とか、『さっさと死ね!』とか言ってた。母親にも顔を合わせるたびに、『何で産んだんだ』とか『零次がいるせいで、俺の金が減ってるんだよ!』とか言ってた。
 俺が手違いでできた子供だから。
 十六年前の春、闇金会社の社長になりたてだった俺の父さんには、愛人がいた。
 俺はその愛人が父さんとしたときに避妊が上手くいかなくて産まれた。
 母さんが俺を産んだのは、生まれた命に罪がないのに殺すのは可哀想だと思ったからだった。
 母さんは同情で俺を産んで、女手一つで俺を育ててくれた。養育費と生活費だけは父さんに払ってもらって。
 父さんは俺と一緒に暮らそうとはしてくれなかった。不倫をしたくせに、本物の妻と暮らすのを選んだ。
 
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