愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「海里の父さんは、お前を事故死にしようとしてたのか?」
俺が言うより先に阿古羅が質問をしてきた。
ああ、気を遣われてしまった。
「う、うん。虐待は俺を車に轢かれそうになっても逃げたりしないような奴にするためにしてた」
俺は気を遣われたのが申し訳なくてつい顔を俯かせた。
「なるほどねえ、そいつアホだな」
「え、なんで」
思わず顔を上げる。
「だって警察か医者の中に少なくとも一人はくらいいるだろ、傷が事故でできたのかそうじゃないのかわかる奴が。それに万が一事故として処理されそうになったら、俺が警察に証拠の動画提出するし」
「父さんはその可能性に気づいてなかったってこと?」
警察か医者が傷を見分けられると思ってなかったのか?
「いや、多分虐待の証拠を持ってる奴がいないから、大丈夫だと思ったんじゃないか? 証拠がなければ、傷が事故の前にできたのだとわかっても、逮捕とかはされずに済むし、金も受け取れると思ったんだろ。まあ俺、証拠持ってるけど」
「ハハ。確かに」
「本当に海里の父親も母親もクソだな」
そう言って、阿古羅は悔しそうに唇を噛んだ。
「でも俺、母さんのこと嫌いになれなかった」
毒親なのに、嫌いになれなかった。
「なんで?」
「……俺、母さんの優しさが好きだったんだ」
いつも笑って怪我の手当てをしてくれて、泣いている俺をいつも抱きしめてくれる母さんが好きだった。好きだったから、その偽りの優しさがどうしようもなく辛かった。
好きだったから、あんなに叫んだ。
愛されたかった。たとえ、何を引き換えにしてでも。
「お前の母親は悪魔だよ。味方のふりをして助けないのが一番タチが悪いんだ。すげえ心を傷つける」
「うん、わかってる。でも、嫌いになれない」
「じゃあ、そのうち腹割って話してみれば? そうしたら、だいぶすっきりするんじゃねぇの?」
「うん」
話せる日なんて来るかわからないけど。
「いやー良かったわ。海里が家出てってくれて」
うんうんと頷いて、阿古羅は言う。
「え?」
「俺、海里が自殺しようとしたのは正直言って今も頭きてるけど、家を出てくれて本当によかったと思う。家にいるのは嫌だって気持ちが海里の中にあって、本当によかった。だってそれがなかったら、こうやって二人で暮らすこともなかったわけだし。それに、もし家を出てなかったら海里はあのまま母親に助けられもせずに父親に虐待を受け続けていたのかと思うと、本当に気が気じゃねぇもん」