私の婚約者には好きな人がいる
プロローグ
山の手にある閑静(かんせい)な住宅地には豪邸が並んでいた。
お金持ちしか住まないと有名な地域で、高い壁に囲まれた家が続く。
この地域に住むのがお金持ちのステータスだと考える人も多いけれど、生まれた時から住んでいるせいか、私はそのことを特別だと感じずに生きてきた。
けれど、私は気づく。

高辻(たかつじ)のお嬢さん』
『お嬢様』

『お嬢様』と呼ばれていることに。
お金持ちの中でも家はなかなかの地位なのかも?ということは幼い頃から薄々気づいていたけれど、学校は幼稚舎から女子大までのエスカレーター式で、友人も昔から同じ顔ぶればかりの慣れ親しんだ方ばかり。

通学はすべて家の運転手が車で送り迎えをしてくれたせいか、男性にはまったく無縁で女子大を卒業したものの、変わり映えのない毎日が続いていた。
お茶や日舞、琴に料理教室、いけばな教室、同じような生活をしている友人達とのお茶会、私の毎日は習い事と友人達との付き合いで過ぎていく。

婚約者はいるけれど、いつまでたっても結婚の話は向こうからなく、それでも私は『きっといつかお話がくるに違いないわ』とのんびりと構えて暮らしていた。
決めらない結婚に業を煮やしたのか、お父様は私に言った。

咲妃(さき)、婚約者の清永(きよなが)惟月(いつき)君の会社で社会勉強として、働いてみたらどうだ」
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