私の婚約者には好きな人がいる
辞令
それは突然にやってきた。
私にすれば、突然のことだったかもしれないけれど、惟月(いつき)さんにとっては違っていたかもしれない。

「海外支店への辞令が出たわよ」

閑井(しずい)さんがバタバタと走って行った。
なんだろう、と思って、私も一緒に行くと、そこには人だかりができていた。
白い紙に海外支店への異動者の名前が書いてある。
『中井結彩』とあり、驚いて中井さんを見ると勝ち誇った顔をしていて、その隣にいた閑井さんはしょんぼりと肩を落としていた。

「はあ…だめだった…」

閑井さんはがっかりした様子で席に着いた。

「閑井さんは海外支店希望なんですか?」

「はい。清永(きよなが)に入社してから、ずっと海外に行くのが夢だったんです。大きなプロジェクトに関わりたいっていうのもありますけど」

だから、走って見に行っていたのだと分かった。

「おめでとう、中井さん!」

「向こうでもがんばってね!」
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