おもいでにかわるまで
第二章
それは昨日の事だった。

「私も5年になったしね、もう引退じゃない?今年は絶対新しいマネージャーを入部させないと、安心していけないんだよね。皆に負担も増えちゃうし。」

いやいや、あなたもうほとんど来てなかったじゃないですか。俺のお茶作りは既に神の域ですよ。あなたよりおいしいお茶作れる自信あるから。

と、心の中だけで勇利は静かに突っ込んだ。

「もう夏子さんのお茶飲めないなんてまじ寂しいっす!」

うわあ、さすが正ちゃん、でもコテコテすぎてバレバレですよ。

「もう!聖也は本当、入部の時からかわいい後輩君なんだからあ。よしよし。」

勇利にとっては心底どうでもいい会話であり、当然辟易(へきえき)しながら聞いていないふりを決め込んだけれど、夏子と聖也がそんな事を構うわけもなく声を揃えてこう言ってきた。

「というわけで、マネージャーを勧誘するのは勇利、お前の仕事な。」

「というわけで、マネージャーを勧誘するのは勇利君、あなたの仕事ね。」

「へ!?」

「はっ?へって聞いてたかお前。部員全員の生霊背負って、死ぬ気でやれよ。」

「勇利君のその顔で、うまく引っ掛けんのよ、がんば!」

「他の2年は、部員集めな。目標10人。じゃ解散。」

引っ掛けるって、ナンパじゃないんだから。でも、もちろん気合十分ですよ俺。たまには愛情という名の隠し味の含まれた健気なマネージャーの作ったお茶飲んで疲れを取りたいわっ。

と壮大な野心を胸に抱いたまま無事に2年生に進級した勇利は、入学式の翌日の昼休みが訪れると、新入生の教室前に降り立ち肩で呼吸を3回してから通る女子学生に手当り次第声を掛けていった。

「ねえ、君、かわいいね。もうクラブ決まった?」

「あ、ねえ君、かわいいね。僕達のクラブ見学来ない?」

「ねえねえ君、僕勇利。かわいいマネージャー探してるんだ。」

「はあ・・・。」

全く手応えがなかった。それはそうである。この学校の女子の少なさと言えばはぐれメタル出現に匹敵し、だから激しい争奪戦になっていて、しかも人気はサッカー部、バスケ部、野球部等に完全に持っていかれてしまうのだ。

マネージャーを見つけられなかったら、また聖也君に怒られるな。それより何より、俺だってかわいいマネージャーが欲しいんだ。

部員全員の生霊を口先に集中させて、勇利はいよいよ本気で声を掛け始めた。
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