溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
2、翠雨の出逢い

【雅己side】


あの夜の出会いを―――いや再会を、俺は昨日のことのように覚えている。

強引に握った俺の手を弱々しく握り返した彼女の手は、微かに震えていた。
強く握りしめ返して、俺は彼女を連れて夜の街に繰り出した。

夜はまだまだ長かった。
ネオンと人の海に今にも飲まれそうに心細げな彼女を見るとともに、疑念が俺の中で渦巻く。

どうして君のような人が、あんなところに。

その憂いだ綺麗な顔にあれやこれや問い質したくなるのを必死に堪えて、まずは冷静になるよう自分に言い聞かせた。

彼女がそうして不安げな様子を抑えきれないのは無理もないことだった。

彼女にしてみれば俺は初対面の謎の男で、彼女を誘ったあの男達と同類程度の人物としか見られていないのだから。

しかし俺にとってはこれが彼女との再会だった。
そして、今の彼女が本来の彼女の姿ではないことも、俺は十分知っていた。

初めての出逢いは、俺が一般客のふりをして茶房紫庵に来店したあの日。
彼女がホールスタッフとして働いていた、あの六月の雨の日のことだった。





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