あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


そもそも実業家は美術の知識に乏しくて、投資目的で購入したらしい。
美術品の運搬業者は長年『画廊 奥村』と付き合いのある信頼できる会社だと言うし、あらゆるモニター画面にも怪しい動きは記録されていなかった。そうなると贋作だと騒いだ友人までが怪しくなってくる。
誰かが取り換えたのか、友人が偽証したのか証拠がないまま時間だけが過ぎた。

その間には、和花から連絡が何度も入っていたが樹には電話に出る余裕もなかった。
和花の父にも優秀な弁護士が付いていたから心配はないだろうと思っていたし、逆に和花との関係を知られると事務所で問題になるかもしれない。
色々と考えた結果、樹は和花と距離を取ったのだ。

まだ下っ端の樹に入ってくる情報は少ないが、どう考えてもしっくりこなかった。
奥村圭介という人物をよく知っているだけに、違和感があった。
彼が『贋作』に頼る商売などするはずがないのだ。

自分なりに調べれば調べるほど、壁にぶち当たる。
マネーロンダリングのために仕掛けられたのではと考え始めた頃、奥村圭介は証拠不十分であっさり不起訴になった。
なにか目に見えない力が働いたとしか思えなかった。

やっと和花に会えると思ったら、今度は両親が縁談を勧めて来た。
相手は奥村氏を告訴した実業家の娘で、樹にとってはありえない話だった。



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