あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


その時に、自分の両親もこの詐欺疑惑に関わっているのではと疑った。

実業家とつるんで訴えておいて、さっさと取り下げる。
その混乱に乗じて、誰かがマネーロンダリングを行って儲けているかもしれない。
証拠不十分で不起訴になったのも、大きなお金や権力、外交問題などが絡んでいたのかもしれない。

不可思議な一連の流れを考えると、両親にもなにかメリットがあったはずだ。
そう思うと和花の顔を見るのが辛くなってしまった。
この事実をどう話そうかと迷っているうちに、和花の父が亡くなってしまったのだ。

あっけない幕切れに、運命はあまりにも残酷だと思った。

あの時、和花の電話に出ていたら。
不起訴になった時に、すぐに和花に会いに行っていたら。

何度も思い返した。だが自分の至らなさが原因なのだから、今となってはすべてが言い訳でしかない。

そして、和花と連絡が取れない事実だけが残った。

(僕たちは終わったのか? この恋は終わったのか?)

どう考えても、和花と別れた実感は湧いてこなかった。
空虚な気持ちのまま両親から距離をとることを決め、樹はアメリカに行って人生を変えることを選んだ。


< 31 / 130 >

この作品をシェア

pagetop