脱出ゲーム ~二人の秘密の能力~
これぞ、豪華客船!
「…うわぁ、大っきいー!」




海のしょっぱい潮風が漂う港。


そこにあるひと際大きな船を見て、私は思わず叫んだ。


日差しにきらめく真っ白な巨体は全長200メートルを確実に超えている。


そして数え切れないような窓とバルコニーの数。


その辺にあるホテルよりも多いんじゃないかと疑いたくなる。


一体どれだけの人がここに泊まれるんだろう?


500人?

いや、もっとだよね。


想像もつかないよ。


あまりの大きさにもうこれは船ではないんじゃないかと思いたくもなるけど、ブウウウウウンという低い音のエンジン音が船だってことを主張してる。


まるで、船の形をしたホテル。


こんなの、テレビとかでしか見たことがない!

これぞ豪華客船って感じ…。


「あっ、七瀬ちゃんだよね?」


目の前の船に圧倒されていると、海とは反対側から包容感のある体つきをしたメガネのおじさんが駆け寄ってきた。


どう見ても人のよさそうな顔をしてる。


「はじめまして。飯田です。お父さんから話は聞いてるよね?」


「はい、今日はよろしくお願いします!」


そう、なんで私がこんな所にいるかと言うと小説家のパパに頼まれて、写真を撮りに来たのだ。


今度パパは豪華客船を舞台にしたミステリー小説を書くんだって!

ま、普段から本を読まない私は多分読まないんだけどね。

瀬那は読むかもしれないけど…。


本当はパパと一緒に撮りに来る予定だったんだけど、パパがまさかの季節外れのインフルエンザにかかって急きょ私だけが来ることになった。


こういうとき、パパって運が悪いんだよね…。


まぁ、一人はちょっと心細いような気もするけどこんな経験中々出来ないだろうし、楽しむぞ!!



「じゃあ、早速中に入って行こうか?」


「はい!」



案内役の飯田さんに続いて船へと続くスロープを上がっていく。


海に浮かんでるからどうやって入るのかと思ったけど、やっぱりちゃんと道があるんだね。

ジャンプして入るのかなって思ったことは秘密にしておこっと。


絶対バカにされる。


特に瀬那に。


「今日は昨日のパーティーの清掃日だから何人かスタッフが入っているけど気にしなくて大丈夫だから」


「パーティー…」


パーティーなんて、もうお金持ちみたいな響きだよね。

私みたいな庶民には聞きなれない単語だ。

一体どんな感じだったんだろう…。


やっぱり料理はおいしいのかな…。


「この船は三崎グループの社長さんが所有しててね。関係会社を集めてよく船上パーティをしてるんだ」


「えっ、三崎グループってCMとかでよく見るあの会社ですか!?」


三崎グループといえば、食品から車、家電製品などと幅広く展開している世界に誇る大企業だ。


三崎グループのCMは毎日見ると言っても過言ではない。


「うん。まぁ三崎グループほどの大企業だからこそ、こんな豪華船を持つことが出来るんじゃないかな」

「そっか」


確かにこんな大きな船、相当なお金持ちじゃないと手が出ないのかも。


「じゃあ、ドアを開けるよ」


スロープを上がりきると、飯田さんが両開き式の白い扉に手を掛けた。


「はい!」


どんな感じなんだろう…!


心がウキウキ、ワクワクと高鳴っていくのとほぼ同時にガチャリ、と音を立ててドアが開く。


「…うわぁ!…すっごーい!」



そこに広がっていたのは暖色系のライトに包まれた、まるでホテルのような豪華な空間だった。


金色に輝く大きな柱に高級感のあるふわふわの赤いじゅうたん。


中心のおっきなグランドピアノに、高い天井には3段にもなっている大きなシャンデリアがきらきらと光を反射させながらぶら下がっている。


さらに奥には二つ合わせて大きく3つ段の円を描くようならせん階段がある。


そして何より、


「こんなに広いんだ!」


その広さは船の中とは思えなかった。

まるで高級ホテルにいるみたい…!


「喜んでもらえてなによりだよ」


「本当にすごいです!…あっ、ていうか全然揺れてないですよね?」


うっかり忘れてしまいそうになるが、ここは海の上。


さっき外で見た海は波もゆれていたけど、この船は不思議なくらい全然ゆれていない。



「実は大きい船ほど揺れは起きにくいんだ」


「えっ、そうなんですか!?」


意外。

なんとなく大きい船のほうがゆれやすいのかなーと思ってた。


「うん、大きい船のほうが波のゆれを吸収することが出来るからね」


「へー」


笑顔で解説してくれる飯田さんの話に感心しながら、私は船の迫力ですっかりと忘れていたパパからの任務を思い出してカメラのシャッターを押し続けた。
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