水もしたたる善い神様 ~沈丁花の記憶~

ニ、

 





   二、



 「へぇ………。神様である俺に嘘をつく、か。いや、ついているという事は、今までの会話の中に嘘があった、と」
 「……はい。ダメでしょうか?」


 やはり、嘘をつく人間など神様は感心しないのだろうか。
 もしそうであるならば、きっと今の条件はなかった事になり、紅月は死に怯えながら、残りの短い時間を過ごす事になる。
 言わなければよかったのかもしれない。
 けれど、これだけは伝えておかなければいけない。紅月は自分の思いと行動に後悔はなかった。

 どうせ、死ぬ運命だったのだから。受け入れるしかないのだ。
 今までの人生もそうだったように。


 神様はニヤリと面白いものを見るように笑みを浮かべながら、紅月を見つめている。
 人一人の命を握っているというのに余裕の笑みを見せるところは、やはり神という存在なのだろう。


 「その嘘というのをいつ、私に教えてくれる?」
 「神様が知る時まで、ではだめでしょうか?」
 「いいだろう。では、交渉は成立だな」


 パンッと1回手を叩いた神様は満足そうに笑みを浮かべている。
 どうやら、条件と引き換えに呪いとやらを払ってくれるらしい。紅月はホッとしつつも、神様との結婚という事が信じられずにいた。それに、神様と夫婦になって何をすればいいのか、想像もつかなかった。


 「あの、それで。私は何をすれば……」
 「それで、人間の嫁よ。人間は結婚をしたら何をするのだ?」
 「………」



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