転生聖女の異世界スローライフ~奇跡の花を育てたら魔法騎士に溺愛されました~

35.寸劇

 国王陛下がお呼びであると聞いたとき、アルフォークは遂に来るべき時が来たと覚悟した。

 あの嵐の日から、早四日が経った。スーリアが来たのは昨日のことだ。

 スーリアを見たとき、気持ちが昂ぶって思わず抱きしめたい衝動に駆られた。それを思い留めたのは、自分がもう二度と騎士として任務に就くことが出来ないという現実だった。
 十代始めに騎士学校に入学し、卒業後も騎士の道一本で魔法騎士団長の座まで上り詰めた。その自分から騎士の道を取り去ったら、何も残らない。スーリアを護ることもままならないと思った。

 窓際に飾られた向日葵を見て、力強く咲くその花に気持ちが少しだけ救われた。この向日葵はスーリアとあのような別れになった公開訓練の日、スーリアが落としたものだ。拾って執務室に飾っていたが、昨日キャロルがアルフォークの病室まで運んできてくれた。別れることを決めた恋人に対してなんと未練たらしいのかと、我ながら自分の女々しさに乾いた笑いが漏れる。

 アルフォークは自身の右手を見た。
 力を入れようと何度も試みたが、今日まで動くことは無かった。最後にもう一度力を入れようとしたが、その右手は作り物のようにピクリともしない。
 アルフォークはその作り物のような右手を眺めながら、ため息をついた。
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