パパか恋人かどっちなのはっきりさせて!
2.迎えに来てくれて一緒に上京した—すぐにドキドキする同居生活が始まった!
3月下旬の土曜日の朝、私の荷物を引越し屋さんに託して、昼前には新幹線で叔父ちゃんと二人東京へ出発した。

窓際に座らせてもらってしばらくは景色を眺めていた。故郷から遠ざかるにつれて、これを機会に今までのことは忘れようと思った。

叔父ちゃんの方に目を向けると、叔父ちゃんはあわてて目をそらした。やっぱり私のことをずっと見ていた?

「新幹線からの景色は良くないみたい。楽しみにしていたんだけど」

「そうだね、防音壁があるし、トンネルも多いね。在来線よりも海側から離れたところを走っているので海もほとんど見えなくなった」

「東京での生活は不安だけどよろしくお願いします」

私は頭を下げて改めて叔父ちゃんに挨拶した。

「叔父さんも初めて上京するときは不安だった。その経験もあるから気持ちはよく分かる。心配しなくてもいいから、できるだけサポートするから大丈夫、安心して」

それから駅で買ってきたお弁当を食べた。間が持たないのか、叔父ちゃんはひと眠りしようと言う。新幹線ができてから乗り換えがなくなったので安心して眠れるそうだ。

それならと私はすぐに叔父ちゃんの肩にもたれかかって眠る体勢を整える。私が突然肩に持たれかかったのでびっくりしたのか、肩と腕が緊張している。そんなことはお構いなしに目をつむる。なんかいい感じ。しめしめ、これから一緒に住むのが楽しみ。

叔父ちゃんもまんざらでもなさそうでジッとしている。そのうちに肩と腕の緊張が取れていった。途中の停車駅で目が覚めた。叔父ちゃんの様子を見ると眠っていた。

◆ ◆ ◆
途中で目が覚めてから私はずっと考えていた。叔父ちゃんは私のことをきっと気に入ってくれている。だから東京へ来ないかと誘ってくれた。それにあの私を見る目、いつも叔父ちゃんの視線を感じている。私がそれに気づいて目をやると慌てて目線をはずす。だから直感的にそう思う。

私は最初に会った時からイケメンでカッコよくて憧れていた。こんなことになって渡りに船ということだ。それに叔父ちゃんは有名大学を卒業して大手の食品会社に就職している。結婚相手としては誰が見ても申し分ないと思う。今まで独身なのは奇跡みたいだ。本当に彼女がいないのか確認しておかないといけない。そのうち何気なく聞いてみよう。

東京駅に着いたけど叔父ちゃんはすっかり眠っている。良い夢でも見ているのか穏やかな顔、よだれをたらしている。可愛い!「着いたよ」と揺り起こしてあげる。

ここで、まず山の手線に乗り換えて、五反田駅で池上線に乗り換える。マンションまで40~50分だと言う。

東京駅は初めて来た。とても広い。金沢駅の何倍もある。人が多いので歩いていると人とぶつかりそうになる。叔父ちゃんはこんな人ごみでも足が速い。叔父ちゃんを見失うと迷子になるので、スーツケースを引きずりながら、必死で後について行く。

ようやく山手線のホームにたどり着くが、そのホームの長いこと。叔父ちゃんはホームをどんどん歩いて行く。時々振り向いて私がついてきているのを確認してくれている。

「どこまで行くんですか」

「ホームの一番後ろへ。次の五反田での乗り換えに一番近いから。ほら電車が来るから気を付けて」

電車がホームへ勢いよく入ってくる。叔父ちゃんは電車を気にもしないでどんどん歩いて行く。電車が止まった。それでも歩き続けている。ついて行くのがやっとだ。電車のドアが開いたら、突然止まった。

「乗るよ」

「はい」

「一番後ろまで行きたかったけど、ここまで」

息が切れた。後ろの車両は空いていた。空いている席に叔父ちゃんと二人並んで座る。電車が動き出す。初めて見る東京の街、高層ビルが続く。頻繁に電車がすれ違う。目まぐるしく移り変わる景色に目を奪われている。

「次で降りるよ」

「はい」

五反田駅に到着した。ここで池上線に乗り換えるという。エスカレーターでホームへ向かう。ホームはガラッとしていて人が少ない。叔父ちゃんはホームの一番前まで歩いて行く。

「ここが降りる時に一番便利だから」

「ホームでは乗る位置が決まっているの?」

「時間の短縮のためさ。さっきの山の手線のホームは長いから端から端まで歩くと3分くらいは優にかかる。反対の位置で乗車して、乗り換えの場所まで歩いていると、次の電車が入ってきてしまうくらい時間がかかる」

「へー、乗り換えにも頭を使うね」

「4月はじめに新入社員や新入生が通勤通学を始めると駅が混雑する。降り替え口や出口の位置が分かっていないから、離れている場所に下車してホーム内を移動する。それですごく混雑する。ただ、1週間もすると次第に混雑がなくなる。乗る場所が決まってくるからだと思う」

「人が多すぎるわ」

「地方には働く場所がないから、都市部に集まる。都市への一極集中の弊害だ、田舎は閑散としているのにね」

電車が入ってくる。この乗車口からは誰も降りてこないからすぐに乗れた。一番前の車両の一番前に二人で腰かける。

「『池上線』という歌があるけど知ってる?」

「知らない」

「叔父さんもここに住んで知ったけど、路線名が歌詞になっていて、いい曲だよ。そのうち教えてあげる」

二人の近くに乗客がいないので、叔父ちゃんはこれから行く住まいの話をしてくれた。

就職して上京した時に最初に入った独身寮がこの沿線の洗足池駅から徒歩10分ほどのところにあったそうで、今のマンションを3年前に買ったのも何かの縁だと言っていた。

会社の独身寮が廃止になり、使うこともなく自然に貯まったお金があったので、老後を考えて見つけた物件で、洗足池駅から2駅目の雪谷大塚駅で下車して徒歩7~8分のところにあるという。

もう結婚しそうもないから1LDKを考えていたところ、ちょうど売りに出ていた2LDKがあって気に入って決めたそうだ。それで1部屋ゆとりがあったので、私を引き取れたという。

会社が低利で購入資金を貸してくれたのと、祖母が援助してくれたので、ローンはあるけど僅かで負担になるほどの額ではないそうだ。完済の目途もついていると言っていた。

雪谷大塚駅で降りると、確かにすぐ前にエスカレーターがあった。駅前は大通りで車の往来が激しい。車の音がうるさそう。

駅から歩いて丁度7分で到着したマンションは大通りから少し住宅街へ入ったところにあった。ここでは車の騒音があまり気にならない。

大通り沿いだから夜も車の往来が激しく、私が大通りの歩道を夜遅く一人で帰っても心配がないと言っていた。

「すごくきれいなマンションですね。思っていたよりも素敵です」

「気に入ってもらえてよかった」

正面入り口を入って、叔父ちゃんが財布をパネルの突起にかざすと、奥のドアが開いた。すごい。「玄関はオートロック」と説明してくれた。

監視カメラもついていた。24時間警備会社が監視しているので、セキュリティも万全で、私が一人で部屋にいても安心していられる。

エレベーターで3階へ。エレベーターの隣に階段があり、その横が叔父ちゃんの部屋だった。叔父ちゃんは鍵を取り出してドアを開ける。叔父ちゃんについて恐る恐る中に入る。緊張する。

短い廊下を抜けて奥へ向かうと、ソファー、その前に小さめの絨毯が敷いてあり、座卓があった。傍らにリクライニングチェアー、それに大型テレビだけのがらんとしたリビングダイニングがあった。時計を見ると4時少し前だった。

「いらっしゃい。ここが我が家です。このとおり殺風景だけど、独身の男所帯だから勘弁して」

「素敵なところですね。よろしくお願いします」

荷物を置くとすぐに部屋を案内してくれた。

「お部屋だけど、久恵ちゃんの部屋は鍵のかかるこの部屋だ」

「叔父ちゃんは向かいのこの部屋」

「大きい方の部屋を私に、ですか? 小さな方のお部屋で十分ですけど」

「小さめの部屋の方が何でも手が届いて便利だし、落ち着いて眠れると分かったから僕はここでいいんだ。もう引っ越しも済ませたから、大きい方を遠慮しないで使ってほしい。クローゼットが大きいので洋服もたくさん入ると思う」

「私、家具や洋服は少ないんです。小さいときからママと二人で小さなお部屋に住んでいたから荷物も多くありません。パパが買った家も大きくはなかったけど4畳半の勉強部屋がもらえて、とても嬉しかった。こんなテレビに出てくるようなマンションのお部屋に住むのが夢でした。ありがとうございます。とっても嬉しいです」

「久恵ちゃん、神様は人生を皆平等にしてくれている。小さな部屋に住んでいた人には後から大きな部屋に住まわせてくれる。叔父さんも子供の時には、風の吹きこむ小さな部屋に兄貴と二人でいたんだ。人生悪い時もあれば良い時もある。両親を同時に亡くしたけど、また良いこともある。今を大切に過ごせばいいんだよ」

「はい、お陰様で良いことがありそうな気がしてきました」

「それから、ここがトイレ。反対側が洗面所で中に洗濯機置き場。その奥がお風呂。スイッチを入れるだけでお湯が入って、満杯になるとお湯が止まって知らせてくれるからとっても便利だ」

「素敵なお風呂ですね。私はお風呂が大好きでいくらでも入っていられるの」

「それはよかった。ゆっくり入って」

「お茶をいれます。ガスコンロがありませんが?」

「ガスではなく電磁調理器IH。このマンションはオール電化されている」

「へー、でも電気代、高くない?」

「それほどでもない。なんせ、昼間はいないから。独り身でずぼらにはもってこい。その上安全だから」

テレビドラマにでてくるような素敵なマンションに住めるなんて来てよかった。それに私を守ってくれるカッコいい叔父ちゃんと一緒に住めるなんて最高だ。叔父ちゃんのいうとおり、なにか良いことがありそう。
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