今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
3-2
日に日に寒さが和らぎ、あっという間に叶と出逢った季節がまた廻ってきて。OLだった自分が幻に思えるくらいこの一年は濃密すぎた。紙宝堂の仕事もそれ以外の時間も、叶と切り離されることがないから何を思い出しても彼一色だ。 

最近は時々そこに時雨が雑じって。“色”が重なることもあれば、融け合わずにマーブル模様を描くこともある。





「ここン家の風呂、もう少しデカくすべきだろ」

「時雨が大きいだけでしょ」

もう何度も聴いたセリフで、あたしは呆れ気味に言う。

紙宝堂の建物自体は古いけど、リフォームはしてあってキッチンだってカウンター式だし、バスルームだってそんなに狭いわけじゃない。体格の良すぎる時雨が、バスタブの中にあたしまで抱え込むから窮屈なだけで。
 
「スズの為を思って言ってンだよ」 

「なあに、それ」

「もっと俺に色んなことされたいだろ?お前も」

「・・・知らない」

「嘘言え」

ククッと頭の上で笑い声がくぐもった。

最近は随分と時雨にも慣らされて、その触手使いに容易に乱されてしまう。ちょっと武骨そうで自分本位にしそうなのに。あたしの反応をよく見て、探り当てるのも上手。

「・・・ん・・・ッ・・・っっ」

声を我慢してもリビングにいる叶には筒抜けだろう。それを判ってるから時雨はわざと、あたしをバスルームに誘うのだ。  
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