気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

転売ヤーキラー


 仲良くというか、恥をしのんでボリキュアたちと仲良くツーショットを撮る。

「これでいい取材になれそうだね☆」
 スマホの写真を見て嬉しそうに笑うアンナ(15歳・♂)
「そ、そうか?」
 どこにラブコメの要素があるのだろうか?
 俺にはさっぱりわからん。
 というか、リア充のやつらがこの店に来るとは思えんが……。

 撮影タイムも無事に終えたので、さっそくボリキュアストアに入ることにする。

 店内は狭い敷地ではあったが、たくさんボリキュアグッズがあった。
 アクリルキーホルダーやぬいぐるみ、下敷き、クリアファイル、マグカップ、皿などなど……。
 今期のボリキュア『ロケッとボリキュア』が主なメインカラーとして陳列されていた。
 だが、それ以外にも歴代のボリキュアたちが季節限定のデザインでお菓子やバッジなどになって発売されている。

 しかも今年はボリキュア生誕15周年ということもあり、初代ボリキュアである『ふたりはボリキュア』が一際注目されていた。
 ウェディングドレスのようなピンクと白のドレスを纏ったボリブラックとボリホワイトがデザインされた商品が特設コーナーに並べられている。

「うわぁ! 全部欲しい!」

 俊敏な動きでアンナはボリホワイトに飛びつく。
 キラキラと目を輝かせて下敷きを手にする。
 腰をかがめていることもあって、横から彼女を見るとパンツが見えそうだ。

 というかホワイト派だったんだね。
 俺はブラック派。

「見て見てタッくん! 15周年の限定グッズだって! この店でしか買えないんだって!」
 息が荒い。
 興奮してますか?
 あなた女装しているからまだいいけど、普通の男子として来ていたらヤバい人ですよ?

「あぁ、そうなの?」
 俺はどうでもよさげな声で答えた。
「そうだよ! これは絶対に小説の取材に必要でしょ!」
 いや、ないな。
 著作権侵害で訴えられるから。
「ふーむ、俺も嫌いな方ではないが、買うほどのファンでは……」
 そう言いかけると、アンナが俺の両肩を強い力で掴む。
「ダメ! 一つぐらい買いなさい!」
 怒るアンナの姿って、あんまり見たことないんだけども。
 その怒りの沸点がボリキュアって……。

「わ、わかったよ。じゃあ俺もなにか一つぐらい買うよ」
 どうか経費で落とせますように。
 アンナと仲良く15周年の特設コーナーを物色する。

 今気がついたが、彼女は既に店の奥から大きなカゴを持ってきていた。
 スーパーの安売りでつかみ取りしている主婦みたいに商品を選ぶ間もなく、ガシガシとグッズを掴んでカゴにぶち込む。
 狂気の沙汰で草。

「アンナ、そんなに入れて大丈夫か? けっこう一つの値段が高いけど」
 キーホルダー、一つにしても千円ぐらいする。
「だって15周年だよ? 次は5年後じゃない? 今買わないともう絶対になくなるよ!」
「そ、そうなの……」
 圧倒される俺氏。
「こういうのって転売ヤーっていうの? そう言う悪い人たちが買い占めては、ネットオークションとかで高値で売るんだから!」
 めっさ怒ってる。
 確かに転売行為はあまり良くないが、表現が反社会的勢力のように聞こえる。

「な、なるほど……だから定価で買う方が安く済むということか」
「そう☆ 転売ヤーはこ・ろ・すが合言葉だよ☆」
 こわっ!


 俺もなにか一つ記念にと、商品をながめる。
 一つ実用的なものを見つけた。
 それは写真立てだ。
 といっても、ボリブラックとボリホワイトが上下にプリントされている痛いものだが。
 これならばアンナとの写真を自室の部屋に飾れるかな? と思えた。

「よし、俺はこれにするよ」
「あ、それいいね☆ アンナも買おうっと☆」
 ねぇねぇ、あなた破産しません?
「タッくんとの写真を飾るんだ☆」
 同じこと考えていて、思わず顔が熱くなる。

「どうしたの? タッくん、顔が赤いよ?」
「い、いや、なんでもない……」
 俺があたふたして答えると、アンナはどこか意地悪そうな顔をして笑った。
「ふふっ、おかしなタッくんなんだ☆」
 首をかしげて俺の顔を覗き込む。
 悪魔的な可愛さだ。

 俺は咄嗟に話題を変える。
「な、なあ。ところでアンナはもう買い終えたのか?」
 山盛りになったカゴを指差す。
「うーん、もうちょっと店の中を見てみたいなぁ」
 まだ買うのかよ……。
「じゃあ、もうちょっと見てみるか」
「うん☆」


 俺とアンナは店の奥へと向かう。
 そこで何やら異変を感じた。
 レジ周辺にたくさんの大きなお友達が、ざわざわと行列を作っていたからだ。

「なんだろう、あの人たち」
「限定ものじゃないか?」
 俺がそう答えると、レジの奥からスタッフのお姉さんが大きな段ボールを持ってきた。

 それを見た紳士たちが高らかに声を上げる。

「うぉお! キターーー!」
「しゃっあ! 間に合ったでごじゃる!」
「ムホムホ、ウキキ!」
 え? 最後人間?

「一体なんの騒ぎだ?」
「あっ!?」
 アンナが大声で叫ぶ。
「どうした、アンナ?」
「あれ……見て」
 彼女が指差す方向には店のお姉さんが……いや、正しくはカウンターに載せられた商品だ。
 
 ボリキュアの公式抱き枕カバーである。

「あ……」
 察した。
 そうか、前回『ミハイル』時にコミケで、非公式の成人向け抱き枕を買えなくてショック受けてたもんな。

「タッくん、行こう! 絶対にゲットしようね!」
 その時ばかりはアンナではなく、完全にヤンキーのミハイルの目だった。
 誰かを殺しかねない、炎で紅く包まれた獅子の眼だ。
 これは必ずゲットせねば、俺まで殺されそう。
「りょ、了解……任務を遂行する」
 命をかけてでも手に入れろ、抱き枕を!

 その時だった。
 ボリキュアストアのお姉さんがこう叫んだ。

「ただいまより、抱き枕の販売をはじめまーす! 先着順ですので、今から並んでください!」
 そう説明すると、オタクたちが一斉にレジへと直行する。

 俺も狭い店内を、人並み掻き分けて前へと進む。
 気がつくと、隣りにアンナはいなかった。
「アンナ? どこだ?」
 列から顔をひょっこりと出し前後を探す。

「タッくん~! ここだよ~!」
「なっ!?」
 どうやってあんなところに……。
 なんと彼女は一番前にいた。
 
 あの数秒でどうやって移動したんだ?

「一番乗り~☆」

 さすが伝説のヤンキー。いや今日から、伝説の大きなお友達と改名しておきます。
< 130 / 490 >

この作品をシェア

pagetop