気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

インスタントカメラは現像すると恥ずかしい


 長浜 あすかは、ふてぶてしく腕を組んで立ちふさがる。
 こんなにオラっているアイドルは初めてみた。

「なにをやってんのよ、早くいらっしゃい!」

 ちきしょう、なんでこいつと一緒に写真なんか撮らないといけないんだ。
 全然うれしくねえよ。
 どうせならアンナとプリクラを撮影した方がいい思い出になるわ。

「はぁ……んじゃ、ミハイル撮ってやるか」
「そだな☆」
 気がつけば、こっちが撮影してやる身分に立場が逆転していた。

 
 近くにいた男性店員が、インスタントカメラを手に持ってこういった。
「では、3万円分ですので、6枚のチェキを撮影できます」
 そんなにいらねぇ!

「フン! なんだかんだ言ってアタシを推しているんじゃない。散財するオタと変わらないわ」
 違う。ただアル中の姉が酒を買いすぎただけだ。
 思考がポジティブすぎだろ。

 
 俺とミハイルは、長浜 あすかを挟んで両側に立つ。
 
「では、一枚目いきまーす!」
 といって店員がカメラを構える。

 長浜と言えば、この時ばかりはブリッ子のアイドル顔に豹変する。
 あざといやつだ。

 店員が「ハイ……チーズ」と言う直前だった。
 なにを思ったのか、ミハイルが間を詰め、俺の左腕にくっつく。

「お、おい……」
「チーズ!」
 驚く俺をよそに、笑顔でパシャリ。

「ちょっとぉ! 被っちゃったじゃない!」
 アイドル顔をやめてブチギレる長浜。
 当のミハイルは悪ぶった素振りもせず「え、ダメなの?」と聞いてる始末。
 彼はアイドルキラーだな。

 店員が「一枚目の確認お願いします」とチェキを持ってきた。

 写真を見ると、ミハイルと俺が中心となって撮影されていた。
 俺たちの方がアイドルの長浜より目立つ形となっててしまう。

 なんかアレだよ。
 地方の旅行にいったとき、現地の偉人とかいるじゃん。
 その銅像をバックにして記念写真とった感じ。
 完全にミハイルの方が、長浜を食ってしまった。

「ほう、よく撮れているな」
「うん☆ いい記念になったよな☆」
 俺とミハイルは腕と腕をくっつかせて、仲良く写真を楽しむ。
 それを背後から見ていた長浜が、怒りの声をあげる。

「ちょっと! アタシがメインじゃなきゃダメでしょうが!」
「あ、なんかすまん……」
 ミハイルとイチャこいてしまって、存在を忘れていたので、一応謝っとく。
「どうしたの? 写真は撮ったからいいじゃん」
 この人は本当に空気を読めないな。
 素で言っているところが、また彼女を傷つけてしまう。

「良くないわよ! さ、撮りなおすわよ!」
 
 そして二回目を撮りなおすことになったのだが、またもミハイルが俺とくっつきたがるので、同様の現象が起こってしまう……。
 ミハイルは彼女のことを空気として、扱っているようだ。
 なんて恐ろしいお人なんだ、無惨。

「ちょっとぉ! あんた、芸能人のアタシより目立たないでよ!」
 そりゃそうだ。
「でも、3人で一緒に撮ってることに変わりないじゃん」
 間違ってはない。
 だがアイドルと写真を撮っているというよりは、ただただ、俺とミハイルの仲良さを記念にしているような撮影会だ。
 
「キーーーッ! もう頭にきた!」
 長浜 あすかは顔を真っ赤にさせると、なにを思ったのか、ステージ(牛乳瓶のケース)から飛び降りた。
 そして、ミハイルとは逆の方向、つまり俺の右側に立つ。
 だが、それだけではなかった。
 彼女は俺の腕に抱き着くように身を寄せる。

 ふくよかな胸が、プニプニと腕に伝わってきた。
 ウオェッ!

「さ、これであたしが目立つわね♪」
 満足そうにおでこの上でピースする。
「あぁ! なんでタクトにくっつくんだよ! 離れろよ!」
 今度はミハイルが怒り出す。
 彼女を俺から盗られまいと、左腕を引っ張る。
「いててて!」
 あなた、馬鹿力なんだから勘弁してよ。

「は? あなたさっき言ったじゃない? 三人で一緒に撮れるなら問題ないでしょ」
 と言って、いじわるそうにニタリと微笑む。
「クッソ! 卑怯だぞ!」
 いや、別に間違ってはないよ。
 それより、ひっぱるのやめてね。すごく痛いから。

 ミハイルはボンッ! と音を立て、顔を真っ赤にする。
 しばらく「ウーッ」と長浜を威嚇していたが、何かを思いついたようで、引っ張ていた腕の力を緩める。
 と思ったのも束の間、今度は逆に俺の胸に飛び込んできた。
 文字通り、胸に両手でしがみつく。
 まるでコアラのようだ。
 じゃあ、あれか? 俺はただの木か?
 
「ちょっと! あなた。そんなに芸能人より目立ちたいの?」
 長浜さん、違いますよ。
 彼の目的はカメラを自分に注目させることではなくて、俺の視線を釘付けにしたいだけの変態さんです。
「違うもん! このまま撮りたいだけ! じゃあ写真、撮ってくださ~い☆ 連写でいいでーす!」
「ちょ、まっ……」
 彼女が止めようとしたが、時すでに遅し。

 店員さんがミハイルの注文を了承し、バシャバシャと連写してしまった。

「おつかれさまでーす。確認お願いします」

 そして集まったのは、残り5枚もの俺とミハイルのイチャこいたチェキ。
 トランプのように手の上で広げるミハイル。
「やったぁ! キレイに撮れてる☆」
 酷い……。

「キーッ! なんなのよ、あなたたち! 本当にアタシを推しているの?」
 だからなんで俺たちが推している前提で話すんだ。
「え? 押すってなにを?」
 ミハイルに限っては、文字変換ができてない。脳内で誤字している。
「あたしを応援しているってことよ!」
 長浜がそう説明すると、ミハイルは「ああ…」と納得していた。
「まあ応援はしてるよ……同じ高校の子だし」
 それは推しとはいえないレベルなんですけど。
「フン! ならいいわ! 今日は許してあげる」
 と言って、長い黒髪を手ではらう。

 てか、それで納得できるあなたも中々におバカでポジティブな人なんですね。
 さすが芸能人、メンタルが最強だ。


 長浜 あすかがやっと落ち着いてくれたところで、俺たちは写真を持ってその場を去ろうとする……そのときだった。
 彼女が俺たちをひきとめる。
「待ちなさいよ! 握手は!?」
 あ、忘れてた。
「もう写真だけで良くないか」
 俺がそう言うと逆鱗に触れたようで、再度、顔を真っ赤にして怒りを露わにする。
「なんですって!? この長浜 あすかと握手できるのよ! あなたたちみたいなキモオタは金を払わないと女の子に触れることなんてできないでしょ! またとないチャンスなんだから!」
 この人、ファンを大事にしてないよね。

「まあ……確かに権利は買っちゃったから握手しとくか」
 ついでだし。
 俺がそう言って手を差し伸ばすと、隣りに立っていたミハイルがその手を叩き落とす。
「いって!」
「ダーメ、タクトは女の子に触れるとオオカミさんになっちゃうから」
 なんだよ、その偏見は……まるで俺が暴漢みたいじゃないか。

「だから代わりにオレが握手してやるよ☆」
「ええ……」
 もうミハイルくんってば度が過ぎるよ。
「あら、あなたはよっぽどこのアタシを推しているみたいね」
 ポジティブだなぁ。
 これだけ、図太いなら芸能界のてっぺん獲れるかも。

「うん☆ じゃあ握手しようぜ☆」
「そうね♪」
 なぜか意気投合して、お互いニコニコ笑いながら握手を交わす。
 もうこれ握手会じゃなくて、ただの別れの挨拶じゃないか?

 握手をすること、12秒。
 店員が「そこまでです!」とタイムウォッチを止めた。

 計るまでもないと思うのだが。

「じゃあ、ボランティア活動がんばれよ☆」
「フン! あなたも今度アタシの曲を聴きなさい♪」
 この二人は話が噛み合ってないな……。


 そして、俺たちは大量のビニール袋を持ってヴィクトリアが待つ家に戻っていった。

 帰ってくると、ヴィクトリアは腹を出して、いびきをかいていた。
「フガガガッ……ミーシャ…ねーちゃんがカノジョ探してやるからなぁ」
 例のラブドール疑惑を夢の中にまで持ち込んでいるのか。

 それを聞いたミハイルが苦笑いする。
「変なねーちゃん☆ オレはダチのタクトがいるから、カノジョなんていらないのにな☆」
「え……」
 一生、童貞でいたいってことでいいんですか?
 俺が絶句していると、ミハイルが問いかけた。
「タクトも一緒だろ?」
 つまり俺たち一生、童貞でいないといけないんですか……。
「まあ、友達は大切にしないと、な……」
「だよな☆」


 結局、今年のゴールデンウィークはほぼ休むこともなく、怒涛のスケジュールで終わりを迎えた。
 余談だが、このあと酔っぱらったヴィクトリアの相手をするのだが、深夜まで帰してもらえないのは言うまでもないだろう。
 誰か、モチベーションをあげるために、お給料ください……。
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