気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
第十三章 パーティスクール

書籍化決定!


 アンナと3回目のデート……ではなく、取材は無事に終えた。
 それから数日後、担当編集の白金から電話がかかってきた。

『あ、DOセンセイ! おめでとうございます!』
「は? なにが?」
 祝ってもらうことなんて何もないけど。
 アンナとは付き合ってないし、付き合えないし。

『書籍化決定ですよ!』
「え? 俺、なんか書いたっけ?」
『忘れたんですか? この前のラブコメ短編ですよ!』
 あ、マジ忘れてた。
 ブログ感覚で書いた小説とは呼べないもんだからな。
 俺史上、一番クソみたいなストーリーだし。

「書籍化ってお前、短編だろうが。単行本にならねーぞ?」
『ああ、それなんですけどね。編集長がやけにあの作品を気に入りまして……』
 気に入るなよ!
『以前、申し上げました通り、来月号のゲゲゲマガジンに掲載して、読者から人気があれば長編小説にしたいそうです!』
「マ、マジかよ……」
 俺が以前書いた、小説『ヤクザの華』はそんなVIP待遇受けてないぞ?
 3巻で打ち切りだったし。

『はい! 編集長曰くリアリティがあり、‟とても胸がキュンキュンするラブコメだ☆”らしいですよ』
 オエッ!
 なに人の日常みて胸キュンしてんだよ、おっさん編集長。

「そ、そうか……」
『どうしたんです? なんかあんまり喜んでなさそうですけど……』
 正直、全然喜んでなかった。
 俺が本来、書きたいものはヤクザや暴力、任侠、アングラ……などのジャンルだ。
 ラブコメなんて、本当は書きたくなかった。
 書きたいものを書けない……これほど作家として辛いものはない。
 だが、読み手は残酷だ。
 創作者本人がやる気がなくても、おもしろいかつまらないかを非情に判断する。
 俺がつまらない作品だと思っても、読者がおもしろいと思えば、小説家として書き続けなければならない。
 
 葛藤していた。
 このままでいいのだろうか?
 俺は自分で『クソだ』と思っている作品を世に出していいものか……作家としてすごく悩んだ。
 だが、アンナとの取材はとても楽しい。
 ここで白金に掲載をストップさせるのは簡単だ。
 しかし、同時にアンナとの取材が出来なくなるのは辛い。

「ところで白金。今後の取材費はどうなる?」
 俺の懸念の一つだ。
 あくまで取材とは言え、学生の俺にはかなりの出費だからな。

『それなんですけどね、編集長から許可もらえました』
 グッと拳を立てる。
 ただでデートできるぜ!
『あ、その代わり条件があるそうです』
「え?」
 まさかアンナを紹介しろとか?
『DOセンセイの経費の中で映画代が含まれているじゃないですか? あれを今後全面カットとのことです』
 ガーン!
 ただで映画が観れない……。
 まあアンナのためだ。今後は映画はレンタルで我慢しよう。

『じゃあ、来月のゲゲゲマガジンの反応を待ちましょう♪』
 白金の声音は軽く、上機嫌で電話を切った。

 まあ商業デビューして3年、編集長が俺を褒めたのは初めてだからな。
 今後、俺がバズれば、白金も出世できるかもしれん。
 その時はガッポリ、ボーナスで焼き肉でもおごってもらおっと。


 ~それから数日後~

 第3回目のスクーリングの日がやってきた。
 いつものように赤井駅方面の車両に乗り込む。
 ゴールデンウイークに入り、学生や若者は少なくなってきた。
 きっと休みに入ったから、みんな博多や天神へ遊びにいくのだろう。
 俺の向かう赤井駅は北九州行きの上り路線に対し、リア充共は逆の博多行きの下り路線。
 だから自然と上り路線は客が減る。

 あー人が少なくて気楽だわ。
 だがそれでも、数人ちらほらと制服を着た学生を見かける。
 ゴールデンウイークも部活かよ。
 元気だよな……。

 二駅過ぎたところで席内駅に着く。
 ドアが開くと、爽やかな風と共に黄金色の髪を揺らしながら、一人の少年が入ってくる。
「あ、タクト☆」
 嬉しそうに頬を緩ますミハイル。
 こちらに手を振って、朝の挨拶。

 もう5月も入ったこともあってか、装いも衣替え。
 いつもならTシャツにタンクトップ姿なのに、胸元がザックリ開いたボーダーのノースリーブ。
 丈が短く、へそ出し。
 ボトムスは平常運転で、ダメージ加工のショーパン。
 透き通った白い肌がより際立ったファッションへと変わっていた。

 正直、女装しているより、この格好の方が攻撃力は高いな。
 男装時と言うのもおかしな表現だが、ここで「写真撮っていいか?」なんて聞けば、殴られるんだろうな。
 基本、ミハイルさんて塩対応だもん。

「ああ、久しぶりだな、ミハイル」
 指示したわけでもなく、当然のように俺の隣りにベッタリと座る。
「え? この前会ったばっかじゃん☆」
 おいおい、アンナモード抜けてないんじゃないのか?
 ミハイルくんとはかなり久しぶりなんだけどな。
「この前? 俺とミハイルが?」
 俺が怪訝そうに彼をじっと見つめると、ミハイルはハッと何かを思い出したような顔をする。

「あ、そうだったよな……オレとタクトはこの前のスクーリング以来だもんな、ハハハ」
 苦笑いでその場を誤魔化すミハイル。
 なにこれ、超おもしろい。
 たまにアンナとミハイルがごっちゃになるのがウケるわ。

「そうだろ? ところでアンナはどこに住んでんだ?」
 おもしろいのでしばらくイジる俺。
「え? アンナの住んでいる場所?」
 額に汗を吹き出し、視線をそらす。
 かなり困っているようだ。
「えっとね……どこだったかなぁ。きっと北九州じゃないかな……」
 きっとってなんだよ。
 お前のいとこの設定だろうが。
「ふぅん、ミハイルは遊びに行ったりするのか?」
「オレ? ときどきな……」
 ヤベッ、超楽しくなってきた。
 だがそろそろやめてやらないと、ミハイルの人格が崩壊しそうだ。

 俺は話題を変えた。
「なあ千鳥と花鶴は電車で通学してないのか?」
 ふと気になった。
 あいつらとは電車であまり顔を合わせないし、第一遅刻魔だからな。
「ああ、力とここあはバイクだよ。‟2ケツ”して来てるぜ☆」
 ケツなんてはしたない言葉を使っちゃいけませんよ。
「すまん、2ケツってなんだ?」
 おしくらまんじゅうじゃないよね。

「え、タクト。2ケツも知らないの? ダッセ!」
 腹を抱えて笑うミハイル。
 なんだろう、バカに馬鹿にされている気分だわ。
 かっぺムカつく。
「すまんが勉強不足だな」
 なんで俺が謝ってんだろう。
「2ケツってのは二人乗りってことだよ☆」
 人差し指を立てて、胸を張るミハイル。
 俺が知らない言葉を教えられるのがよっぽど嬉しいんだろうな。
 今日はその胸でも触って許してやろうか。

「なるほど、じゃあ千鳥のバイクに花鶴が跨るってことだよな?」
「そだよ」
 つまり、千鳥の背中にどビッチのパイパイがプニプニしてるってことだよな。
「やはりあいつらは付き合っているのか?」
 以前から気になっていた。
 いつも二人でいるし、というか決まって二人で登場するんだよな、あいつら。

 それを聞いたミハイルは目を見開いて、驚いた。
「え!? リキとここあが? そりゃないよ!」
 キッパリと否定された。
「だが、あの二人かなり親密な仲だろう」
「それは昔からのダチだし、あいつらもお互いのことをそんな目で見てないと思うな」
「つまりただの幼馴染ってことか?」
「うん☆ オレもそのうちの一人だし、保育園のころかな☆」
 友達二人か……少なくて可哀そう。

「じゃあミハイル。お前はなんで電車で通学しているんだ? お前もバイクとか乗らないのか?」
「え? オレは……まだ免許取れる年じゃないし」
 ヤンキーだから基本、無免許上等だと思ってた。
 けっこう真面目じゃん。
「そ、それに……タクトと電車乗るの好き……だから」
 頬を赤くする15歳男子。

 というか、突然の鉄オタ発言。
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