✾~クールな天才脳外科医と甘~い極上の結婚を~✾
決死の覚悟
__この場所に立ち竦んだままどれほどの時が過ぎたのだろう?

到着時は、燃ゆる夕陽が海原に傾き私の斜め後方に身長よりも長く細い影が映っていたが、今はすっかり跡形もなく消え去っている。

ここは、沖縄屈指のリゾートエリア恩納村にあるなだらかな丘陵を活かした広大な敷地に僅か8棟、全室オーシャンビューでプライベート感満載のオールスイートヴィラである。

その南棟の北玄関で、恐らく1時間以上インターホンを押すのを躊躇い足腰に痛みを感じていた私は、力無く溜息を吐きながらしゃがみ込んだ。

空港から無料送迎車でここに近付くにつれ頭の中では不安を煽るサイレンが鳴り響き、刻む鼓動は激しさを増し、溝落ちで燻る不安に何度逃げ出したい衝動にかられたか。

……いいの? 本当に後悔しない?

何度も自問自答に疲れ切り、紫音からもらったレース柄アイスブルーの高級トランクに額を当てうるさいエゴの声を断ち切った。

もう決めたの! 紫音と結婚するって。

2番目に好きでも世界一私を好きでいてくれる彼となら幸せになれる、幸せになる!

そう決心して来たのに土壇場になってこんなに怖気付くなんて思ってもみなかった。
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