伝説の男、黒崎天斗!

伝説の男、黒崎天斗!第10話

理佳子の言う[思い出して欲しいこと」とはいったい何のことなのか…どうしてもわからない…何故俺は記憶が飛んでしまったのか…きっと理佳子は全部覚えていて知っているのだろう…俺が何故トラウマになるような出来事があったのか…

「たかと君…薫のことをどう思う?」

「え?どうって…」

「薫はたかと君をどんな風に見てると思う?」

………何急にそんなこと聞くんだよ。あれは完全に女じゃなく男だろ!きっと俺のことを臆病者の弱虫ぐらいにしか思って無いだろうな…

「んー…頼りない…弱虫とか…そんな感じじゃないかな…」

「薫は弱虫が嫌いってずっと言ってた…でも…なんか…ちょっと変わっちゃったのかな…」

「理佳子?何が言いたいんだ?」

「ううん…ゴメン、何でもないよ」

「なぁ…理佳子…」

「うん」

「理佳子は…強い男の方が好きか?」

「フフフッ…私は…強くなくてもいいの。優しいたかと君が好き…」

「そか、ありがとう。俺、いつかどんな時でも理佳子守ってやれる強い男になるつもりだ。どんなことにも屈しない強さを手に入れて…お前を守ってやる!」

「………たかと君…変わったね」

「え?そうか?」

「うん…たかと君…そっち行って変わったみたい…薫の影響なのかな?」

俺はそんなこと考えたこともなかった。俺は変わったのか?確かに俺は強くなんてなりたいと思ったこと無かったな…知らず知らず小山内や重森の強さ目の当たりにして影響されてたのかな…

「そうかもな…最近立て続けに色んなことあったからな…」

たかと君…私の知らないところで何が起きてるの?薫とずっと一緒に行動してるの?どんどん私の知らないたかと君が増えていって…何だか胸がざわついてくるいつもいつもたかと君を見てたのに…今は全然たかと君を見ることが出来ない…苦しい…戻って来て、私のたかと君…

「理佳子?」

「うん…」

「どした?大丈夫か?」

「うん…」

自然と涙が出てきちゃった…何でだろ…たかと君と想いは通ってるはずなのに…なんか私だけ取り残されているような…幸せなはずなのに何故か…涙が止まらない…

「理佳子…どしたんだよ?」

「ゴメン…ゴメンなさい…私…変だよね…なんか急に涙が出てきちゃって…」

「わ…悪い…俺…変なこと言っちゃったか?」

「ううん…違う…なんか…ずっとたかと君の姿見てないから…ちょっとおかしくなってるのかも…」

「理佳子…」

今すぐにでも会いに行ってやりたい…今すぐ抱き締めて、安心させてやりたい…理佳子…お前…そんなに強い女じゃないもんな…ゴメンな…

「ゴメン…せっかく楽しい時間なのに…ゴメンね…」

「理佳子…本当に大丈夫か?」

大丈夫じゃないよ…もう壊れそうだよ…淋しくておかしくなりそうだよ…薫がたかと君の側に居られるのに、どうして私はひとりぼっちなの?会いたい…淋しい…もう切ないよ…もう限界だよ…

「ゴメンね…たかと君…大丈夫…ちょっとセンチになっただけ…早くデートの日が来るといいな…」

理佳子は精一杯強がって見せたが、もう心は崩壊寸前だった。

「理佳子…無理…してるだろ…」

理佳子は俺の言葉に堰を切ったように号泣してしまった。

「理佳子?理佳子大丈夫か?」

俺は不安になる。理佳子は泣き続けて何も言わない。どうしたらいい…どうしたらいい…考えろ…考えろ…よく考えるんだ…そうだ!小山内確かバイクの免許あるとか言ってたな。あいつに頼んで連れてってもらうか…

「理佳子!ちょっと待ってろ、これからなんとかしてお前ん家行く!ちょっと遅くなるかも知れないけど待ってろ!そっちの住所教えてくれ!」

理佳子はたかとの信じられない言葉に

「たかと………君………どう………して………?」

「理佳子が心配だからに決まってるだろ!」

これが…これがたかと君の優しさ…そうだった…たかと君はいつも優しかった…このタカの面倒を見てた時も、私を庇って助けようとしてくれた時も、お年寄りが重たい荷物抱えて階段登ってる時荷物を持って上げて後ろから背中押してあげた時も、財布落とした人が困ってて帰りの電車賃を上げた時も…いつもいつも優しかった…だから私はたかと君が大好きだった。そのたかと君と今は心が通いあってる。たかと君を困らせちゃいけない…

「たかと…君…私は…大丈夫…」

泣きながら言った。

「だから無理しないで…ありがとう…」

「お前が大丈夫でも俺はお前が心配なんだよ!」

たかと君…あんまり私を泣かさないで…そんなに優しくされたら…私…弱くなっちゃう…

「たかと君…」

「理佳子、住所教えてくれるな?」

俺は優しくそう言った。

「うん…ありがとう…」

そして理佳子の住所をメモした。後は小山内を説得して…

「理佳子、待ってろ!これからなんとかそっち行くからな!」

「うん…」

電話を切ったあとタカを抱きしめタカの顔に何度も何度もキスをした。たかと君が転校してからずっと顔見れなかったけど…やっと逢えるんだ。
理佳子の身体はまるで宙に浮いてるようなフワフワとした感覚になっていた。
でも、どうやってこんな遠くに来るんだろ?


小山内~小山内~出てくれ~、早く電話に出てくれ~!

「あっもしもし」

「あっ!小山内か!ちょっと頼みたいことがある!」

「え?どうした?」

「悪いけどちょっと付き合って欲しい所がある!」

「おぅ、別に良いけど」

「ちょっと申し訳ないが、隣の県までバイクで連れてってくれ!」

「あ…あぁ…あーーーーー!?」

「無理を承知で頼んでる!切羽詰まった事情なんだよ!頼む!」

「お…おぅ…そうか!そういうことならわかったよ!今からそっち行く!」

「悪いな、ほんとありがと!」

「おぅ!待っててくれ」

「おぅ」

あいつバカだけど良いやつなんだよな…


おぅ!俺の愛車!アメリカンタイプ250cc!今日はお前を存分に愛してやれるぞ!さぁご機嫌に頼むよ!
エンジンをセルで始動…ブウォーン!おぅ~良いねぇ良いねぇ!快調な音だ!今日もご機嫌良さそうだねぇ!さあ行こう!黒ちゃん拾って出発~!小山内は愛車で走り出した。


おぅ!あれか!あの良い音させてるバイク!小山内は電話を切ってから10分程で来た。俺の家と小山内の家はわりと近くだった。

「小山内、ほんと悪いな」

小山内は俺にヘルメットをよこしてきた。俺はヘルメットをかぶり後ろに乗ってバイクが走り出す。
バタタタタタタッ…バタタタタタタッ
アメリカン特有のエンジン音で風を切る。俺は後ろから誘導する。


理佳子は落ち着かず何度も何度も時計に目をやった。まだ20分しか経ってない…こんなにも時間が経つのが遅いなんて…ベッドに体育座りをして膝に顎を乗せずっと天斗の言葉を思い出してる。
もうたかと君に何も遠慮することは無いんだ。もう私の全てはたかと君のもの…私もたかと君にいっぱい甘えたいもん…たかと君にいっぱい触れたいもん…いっぱい抱き締めてもらいたいもん…そして…たかと君と…
理佳子の頭の中はピンク色に染まっていた。


「小山内、悪い!高速飛ばしてくれるか!」

「了解」

俺達は高速道路で向かうことにした。
これならおそらく一時間もあれば着くだろう。流石バイクは加速が違うな!もう夜の9時を回っている。交通量もかなり少ないので120キロ以上で走っている。バイクで受ける風の体感は想像以上にキツいが小山内の身体で俺はそれほど影響を受けていない。待ってろよぉ~、すぐに行くからな!しかし小山内は訳も聞かず高速飛ばしてくれて助かるよ。この恩は必ず返すからな!

たかと…明日ちゃんと来るかな…重森薫は明日の地獄の特訓の心配をしていた。あいつ、昔のこと全然覚えてないみたいだな。理佳子とのことも、あの事件のことも…あんなにいっぱい虐めてやったことも全部…ま、忘れたくなるのはわからないでもないけど…今度は自分の力で何でも解決出来る力を付けないとな…理佳子を泣かしたら絶対許さない!
重森は仲間に電話をかける。

「あっ、もしもし…今度ちょっと仲間集めて欲しいんだ。まだ日にちは決まって無いんだけど、夏休み後半の終わりの方が良いかな」

重森には…色々と闇がある…黒崎天斗、清水理佳子、重森薫…この三人の過去の繋がりとはいったい何なのか…それが明かされるのはまだまだ先の話しになる。


「次のインターチェンジ降りたら右に曲がってくれ!そして次の次の信号を左だ!」

「了解!」

小山内のバイク捌きは見事なものだった。あっという間に理佳子の家に着いた。

「小山内、悪いちょっと待っててくれ」

「おぅ!誰の家だ?」

俺はニヤリとして

「俺の女だ!」

小山内はめちゃくちゃ悔しそうなジェスチャーでもがいている。俺は理佳子に電話を入れる


たかと君あとどれくらいで来るかな…まだ一時間ぐらいかかるかな…理佳子が時計に目をやる。時間は22時少し前だ。はぁ~…なんか緊張する…久しぶりだもんな…理佳子が携帯を手にした瞬間に着信

「うわっビックリした…た…かと君…」

「もしもし理佳子!着いたぞ!外に出て来てくれ!」

「えっ?もう…着いたの?」

「あぁ!急いできた!」

「うん…わかった…すぐ行く…」

全然心の準備出来てないよぉ~…もう少し遅くなると思ってたから…急いで肩の上まで伸びた綺麗な髪をブラシでとかし鏡で身だしなみを整え玄関を開ける。辺りを見回すが誰も居ない…

「理佳子!理佳子こっちだ!」

門柱の陰から小声で呼んでいる。理佳子は声のする方へ歩いていく。

「理佳子!遅くなったな」

理佳子はその姿を見てまた急に泣き出してしまった。

「グスン…グスン…グスン…グスン…ヒッヒッ…」

俺は理佳子がどれほど淋しく辛かったのかその涙で推し測った。俺は優しく理佳子を抱き寄せた。理佳子はただただ俺の胸の中で泣いていた。俺は小山内のことが気になりながらも理佳子の気の済むまで抱きしめたまま待っていた。ずっとずっと待っていてくれたんだな…だからずっと張っていた気持ちの糸が切れちまったんだろ?悪かったな…お前の気持ちもう少しわかってやるべきだったよ…

「ありがと…ありがと…ずっと逢いたくて…でも…たかと君困らせたく無かったし…たかと君優しいから…」

俺は無言で理佳子の全てを受け止めていた。理佳子の腰と頭を抱えて俺は理佳子を抱擁し続けていた。

「たかと君…どうやってここまで?」

「それな…実は…連れに頼んでバイクに乗っかって来た」

「え?じゃあ…お友達今居るの?」

「おぅ…紹介するわ、俺の親友小山内だ」

俺はそう言って振り返り

「おーい、小山内~」

小声で呼んだ。

小山内は恥ずかしそうに電柱の陰から出て来て軽く右手を上げて挨拶した。俺は理佳子の手を引いて小山内の元へ進む。
理佳子が

「初めまして清水理佳子と申します。あの…今日は本当にありがとうございます」

小山内に丁寧に挨拶した。小山内は暗がりで照れながら

「いや、黒ちゃんの為なら別に…」

そう言ってくれた。
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