伝説の男、黒崎天斗!

伝説の男、黒崎天斗!第6話

そうは言っても問題は恐い人達に付けられているってとこだよな…もし佐々木と一緒に居てそんな奴らに絡まれたりしても…俺は何もしてやれねぇ…小山内に相談したいけど俺のこと本物黒崎と思い込んでるしなぁ…それはそれで逆にマズイ…ちょっと情けないが重森に相談してみるか…

翌日の昼の休み時間に俺は重森を屋上に誘い出した。この日も空は快晴で乾いた微風が吹いている。重森が校舎の屋上に現れた。重森は太陽の光に眩しそうなしかめっ面で

「どうした?」

相変わらず無愛想な表情でそう言う。

「あっ、悪ぃな呼び出しちゃって」

「別に…」

「あ…のさ…ちょっと相談したいことがあるんだけど…」

俺はどう切り出していいか悩んでいると、

「フッ…あの女のことでしょ?」

重森は吐き捨てるような口調でそう言った。
俺は理佳子のこともあるので少し気まずかったが

「まぁ、実はそれなんだけど…」

「あんたはバカだねぇ…もう少し見込みある男かと思ったけど」

俺は重森が理佳子のことを言ってるのだと思い

「い…いや…何て言うか…」

しどろもどろになっていると

「あんた今日学校終わったら付いてきな」

そう言ってクルっと踵(きびす)を返し行ってしまった。俺は何がなんだかさっぱりわからずその場は教室に戻ることにした。重森はまだ教室に戻っていない。休み時間が終わる間近に重森が教室に入ってきた。俺の横の自分の席に座り前を向いている。俺はそーっと重森の顔を覗いたが完全に無視だ。

その日の授業が終わり、いつものように佐々木が俺の所へ駆けて来たが

「悪ぃ、今日ちょっと用事あって…悪いけど一人で帰ってくれ」

「えぇー!やだぁ…じゃあ友達と帰るね、バイバーイ」

実にアッサリ行ってしまった。そして俺は重森に付いていく。

「なぁ重森…いったいどこ行くんだ?」

二人は学校を出て駅に向かい電車に乗り二駅先で降りる。そしてバスで10分ほど走った所で降りた。そこから少し歩いたそこはこの街の繁華街で夜の時間帯に賑わう場所だった。その繁華街の中を俺は重森に連れられ歩いていく。重森はずっと無言だった。周りにはホテルなどが建ち並び怪しげな風俗店も目に飛び込んでくる。俺は何故重森がこんなところまで俺を連れてくるのか全く意図がわからない…そして重森が細い路地に入った所で立ち止まった。

「なぁ重森、こんな所まで来て何があるんだよ」

重森が人差し指を鼻の辺りに上げて俺を睨むような表情で

「シーッ」

と俺を制止した。辺りは薄暗くなっている。
そして俺はそれ以上何も聞けず重森と二人でただ時間が経つのを待っている。そして俺達のいる反対側の路地から男と女の人影が…
俺は息を飲んだ…その男女からはこちらが見えない所に俺達は隠れている。そこにいる人影の一人が佐々木日登美だった。し…重森…お前…いったい…何を知ってるんだ?
俺は陰に隠れて二人の様子を窺って(うかがって)いる。男は口髭を生やしサングラスをかけて縦縞の服を着て斜に構えたいかにもヤクザ風のスタイル。
なんで佐々木がこんな所であんなヤバそうな奴と!俺は咄嗟に佐々木の方へ駆け寄ろうと立ち上がった。その時重森が俺の腕を掴んで引っ張り俺を座らせる。俺は小声で

「いったい何が起きてるんだよ?佐々木ちょっとヤバい状況じゃないか…なんで重森こんなこと知ってんだよ」

俺の頭の中は整理が付かず少し感情的になっていた。重森も小声で

「いいから自分の目でよく見てみな」

冷静にそう言った。俺はじっと二人のやり取りを観察した。何かヤクザ風の男が佐々木に手渡している袋に入った何か…何だろう…そして佐々木は男に何か言われている。よく聞き取れないが所々聞こえてくるやり取り…

「いいか、ちゃんと全部さばいとけよ!」

男が威圧的に言ってるのがわかった。佐々木がうつ向いたまま頷いた。そして男が去ろうとしたところへ佐々木が男の袖を掴んで止めようとした。男は佐々木の腕を振り払い振り払った腕で佐々木の頬を殴った。

「あっ!」

俺は思わず声が出てしまったがどうやら気づかれなかったようだ…佐々木は殴られた頬を自分の手で抑えうつ向いたままだ…そして男は佐々木を気にかけることなく行ってしまった。佐々木はその場にうずくまりどうやら泣いてるようだ。

俺は重森の顔を見た。重森はそっぽ向いてこう言った。

「あの娘麻薬の売人と繋がってるの。それで利用されてんの。それで麻薬の売買のトラブルに巻き込まれてあんたの名前を笠に着て利用しようとしてるだけ…わかる?」

わかる?って…そんな…あの無邪気な佐々木が…そんな闇の世界に…とても信じられない…

「目が覚めた?ほんと女見る目が全くないよね…」

重森はショックを受けている俺に追い討ちをかける。

「まさかとは思うけど、あんなクズにプレゼント選ぶの付き合わせたんじゃないよね?あの娘とんだクズ女だよ!男を次から次へとたぶらかして薬売りさばいて、アイツに何人の男が麻薬に沈められたと思う?この世界はね、あんたみたいな坊やが思ってるほど綺麗なものばかりじゃないの!」

そう言って重森は立ち上がり歩いて行ってしまう。俺は一瞬立ち尽くしてしまったが慌てて重森の後を追う。自分の浅はかな行動を振り返り自分が凄く惨めに思えてきた。重森とバスに乗りそして電車に乗り換え帰宅する道のりの中でずっと俺は考えていた。自分の愚かさと、そして重森の謎…何故重森は佐々木の裏の顔を知り得たのか…いったい重森は何者なのか…俺は重森のあまりにも謎めいた影に興味が湧いていた。


次の日の放課後も佐々木は何事も無かったかのように俺の所へ駆けて来た。

「たーかやん、かーえろ」

「あぁ…」

俺は佐々木の闇を知って完全に冷めている。
二人で学校を出て歩く。佐々木はいつものように一人喋りまくるが俺のテンションは低い。佐々木が俺の顔を覗き込んで…

「タカやん今日何かあった?」

そう言ってきた。俺はどう切り出していいかわからない…

「なんか今日は心ここにあらずって感じだね。あっ!そうだ、今日これからウチ来るぅ?」

昨日の件が無ければ俺は完全に佐々木の誘いに乗っていただろう…そして俺もこの女の餌食にされたのだろう…

「あのさ…俺…昨日見ちゃったんだ…お前の本性…」

佐々木は一瞬眉をひそめ目を反らした。
そしてすぐに

「えー?何のことぉ?タカやんどうした?」

おどけて見せる。

「お前…薬売ってんのな…」

本題に切り出したが佐々木は全く悪びれた素振りもなく

「なーんだ、知ってたんだぁ~。タカやんも薬に興味あった?今日家で一緒にやらない?」

こいつ…ほんとのクズ女だ…俺は…俺は…最低な男だ…こんなバカにたぶらかされて…理佳子の気持ち踏みにじってしまった…もうあいつのこと考える資格もない…
俺は…俺が一番バカだ…

「お前…俺を利用しようとしてただけだろ?」

佐々木はキョトンとした芝居をして

「やだぁ、どうしたのタカやん…何か怒ってる?」

「悪ぃけど俺…お前のこと守ってやれん…お前…もうあんな輩と関わるのよせ…」

そう言った瞬間佐々木は人目もはばからず俺に抱きついて来て俺の唇に自分の唇を重ねようとしてきた。俺は咄嗟に佐々木を突き飛ばしていた。佐々木は後ろによろけて倒れそうになったところを俺が腕を掴んで何とか持ちこたえた。

「ごめんね…私…」

そう言って目に涙を溜めている。

「タカやん…私…私…あなたの力が必要なの…」

俺はその涙を見た瞬間心が揺らいでしまった。凄く申し訳ないことをしてしまった。
きっと佐々木もあのヤクザな男に利用されて…なのに俺は…俺が何とかしてやらなくちゃそう思って佐々木に声をかけようとした時

「何、都合良いこと言ってんだお前は」

俺は目を疑った。俺の後ろから声をかけたのは重森だった。

「し…重森…」

「あーら重森さんこんにちは」

またもや俺は目を疑った!さっきまで泣いてたはずの佐々木が笑いながら重森に

「何か用?今私忙しいんだけど」

開き直ってやり返している。

「お前のお陰で私の可愛い仲間たちが薬付けにされてんだよ」

「ハハハハハ、それは私のせいじゃないわ~。私は無理強いなんてしてない。自分達が決めたことだもの。逆恨みもいいとこね」

俺はこの二人のやり取りを不思議な気持で眺めている。なんか現実離れした光景…重森の仲間!?薬付け!?重森のことがますますわからなくなってきた。

「お前、地獄の底ってやつ見せてやるから覚えておきな!」

凄い目付きでそう言って重森は行ってしまった。重森が去ったあと、俺は佐々木の方を一度振り返ったがすぐに重森の後を追った。

「なぁ重森~」

俺はスタスタ歩いていく重森の背中から声をかける。

「………」

「重森、ちょっと待ってくれよ。なぁ、佐々木のこと悪かったな…」

「別に謝られることじゃないから」

重森は振り返らずそう言った。俺も重森の後を追いながら

「重森…なんかいろいろ事情があるみたいだけど…何か手伝えるか?」

「………あんた…理佳子どう想ってるの?」

ドキーン!!いきなり核心を突かれ俺の心臓を射ぬいた。

「……………も、もちろん理佳…清水のこと好きだよ…でも、清水に電話かけたけど………全然かけ直しても来ないし…」

「理佳子待ってんだよ!?ずっとあんたのこと想い続けて…ずっとずっとあんたのこと待ってんだよ!?ほんと情けないなぁ!」

重森は真剣に俺に説教した。

「ほんと女心のわかんない奴だなぁ。何あんなクズにたぶらかされてんのさ…」

俺はぐうの音もでない。

「すまない…」

「ま、目が覚めたんなら別に良いけど…今度理佳子裏切るような真似したら理佳子の代わりに私が許さないから」

「わ…わかったよ…」

重森が恐いからそう言ったのではない。
理佳子の気持ちを踏みにじってしまった反省からだった。やっぱりあいつ、俺のこと待っててくれてんだよな…もう…二度とあいつを悲しませるようなことはしない。重森は無言で歩き続ける。

「重森ってさ、強い男好きなんだろ?小山内のことはどう想う?あいつ強いと思うぞ。心も…」

言ってやった。言ってやったぞ。
重森は

「それって…あの時偶然装って実は偶然じゃ無かったって?」

やっぱり女の直感は恐い…鋭すぎる…

「い…いやぁ…あれは偶然だよ!」

「じゃあプレゼント選びは理佳子の?」

「ん…んん~…まぁ、そうかな…」

歯切れの悪い言い方になってしまった。
また誤解を招きかねない…

「あんた…どんなことがあっても理佳子を守れる力付けなきゃ」

えぇー…そりゃわかってんだけど…俺喧嘩自体したことないからなぁ…

「この前の相談ってあの女守りたかったからでしょ?強くなりたいんでしょ?それで私に鍛えて欲しかったんでしょ?」

えぇー!いや…俺はそういうつもりじゃなく、重森に助けて欲しいなーって思っただけで…俺は全然度胸が無いんだよなぁ…

「私、合気道と空手やってたから。それに私の兄貴にめっちゃ鍛えられたから。これから私がきっちり鍛えてあげる」

し…死んだ…俺絶対死んだ…骨すら残らないかも知れない…いや、この世に存在すらしないかもしれない…
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