貴方なんて許せる訳がない
 結婚して最初の頃は優しかったし、所謂、新婚さんな時期もあった。

 私が、もしかしたら妊娠? と気付いて、多分もう間違いないと産婦人科を一人で受診した。
「おめでとうございます。赤ちゃん元気に育ってますよ」
と医師に言われた時の嬉しさは言葉に出来ないくらいだった。

 瑛を驚かせようと仕事から帰って夕食を済ませて
「瑛。私、赤ちゃんが出来たの」
と話した。勿論喜んでくれると思っていた。

 でも…………。


「えっ? 本当に?」
驚いてはいた。でも喜んでくれているとは思えなかった。

 それから瑛は私には触れなくなった。
「お腹の赤ちゃんが驚くような事はしたくない」
そう言った。

 それから目に見えて瑛の帰宅は遅くなった。平日は仕事だからと。

 休日も出掛けて行く。


 
 私は母や、日高のお義母さんのような母親になれるのが本当に嬉しかったのに……。

 毎日毎日、まだ見ぬ我が子に話し掛けて、小さな命が愛おしくて、女の子かな? 男の子かな? どんな名前にしようかなんて考えたりして生まれて来る日が楽しみだった。

 妊婦健診に行く度に
「順調に育ってますよ」
との医師の言葉に安心する。

 悪阻は正直言って辛かったけれど……。
 それよりも早く会いたいという気持ちの方が大きかった。

 臨月に近くなって、色々不安もあったけれど、幸せの方がはるかに勝っていた。



 でも瑛は違ったみたいだった。

 出産しても瑛は変わらなかった。父親になる事を拒否しているかのように……。


 まるで柚奈と私は二人だけの母子家庭……。



 夫婦として触れ合うような事もなくなっていた。

 もう瑛に対して嫌悪感しか持てなくなっていた私にはちょうど良かった。

 愛情なんて最初から無かったのかもしれないと思い始めていた。





「私、どうすれば良いかな?」
一つの言葉が心の中を占めているけれど、ずっと我慢強く耐えていた私はその結論が正しいのか分からなくなっていた……。

「瑠美が思ってる事、今まで溜め込んできた思いを全部ぶち撒けなさい。言いたい事を言ってスッキリしたら、それから考えるの」

「それで、もし……」

「離婚になったら、それでも構わないわよ。さっきお父さんとも話してきたの。いつでも帰って来なさいって、お父さんも言ってたわ」

「ありがとう……」
涙が零れた……。

「瑠美。泣いてたら言いたい事も言えなくなるわよ。強くなりなさい。柚奈の為にもね」

「うん。分かった」


 私は見ないように聴かないように考えないように過ごしてきた、幸せとは程遠かった結婚生活を未練の欠片すらなく終わらせる事をこの時に心に固く決意していた。

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