すべてが始まる夜に
マニュアル本女 vs イケメン上司
「本日より九州支店からこの事業戦略部に異動してきました松永悠樹(まつながゆうき)です。慣れるまでご迷惑をお掛けすることがあるかもしれませんが、よろしくお願い致します」

4月1日、神田に本社を構えるエムズコーポレーションのフロアに、新しく赴任してきた部長の声が響き渡った。

全国に『カフェ ラルジュ』をチェーン展開している会社、エムズコーポレーション。
ここが私の働いている会社だ。

“ゆったりとした心地よい空間でコーヒーを”というコンセプトで作られた『カフェ ラルジュ』は、今やほとんどの人たちが知っている人気のあるカフェだ。

ただ全国に店舗を構えているとは言ってもやはり首都圏が群を抜いて多く、地方だと主に駅前や空港、サービスエリア、最近では病院にも出店している。
また、カフェだけでなく専門店にコーヒー豆を卸したり、オフィス向けのコーヒーサービスを提案したり、コンビニとのコラボ商品を企画したり、ギフト商品などのオンラインショップを展開したりと、コーヒーに関する様々な事業に取り組んでいる。

私が所属する事業戦略部は、隣の開発企画部が数ある候補地の中から市場調査や分析をして新店舗の出店を確定させた場所に、カフェに来店するターゲット層や周辺の環境などを踏まえて、店舗のイメージやコンセプトを考えていく部署だ。また、各店舗の売り上げ状況を見ながらターゲット層を見直して店舗のリニューアルを企画したりもする。

今までは男性がメインの部署だったけれど、他社との差別化を図るためにも女性のアイデアをもっと取り入れようということで、私は入社と同時にこの事業戦略部に配属された。
そして4月から私の上司になったのがこの松永部長だった。

赴任の挨拶には一切笑顔はないけれど、さわやかな声と整った顔立ちに、周りにいる女性社員たちが頬を上気させながら、満面の笑顔で新しく赴任した部長を見つめている。

このフロアって、こんなに女性が多かったっけ?

いつもとは違うフロアの様子にそんなことを考えていると、隣から後輩の若菜ちゃんが私にこそこそと耳打ちしてきた。
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