すべてが始まる夜に
悠樹side #1
今日は本当にいろいろあった1日だった。
家に帰ってすぐにシャワーを浴びた俺は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すとそれを持ってソファーの上に座った。見るわけではないけれどとりあえずテレビを点けてペットボトルのキャップを開ける。さすがに今日はあの蕎麦屋でビールをジョッキ4杯も飲んだから酒はもう十分だ。

ミネラルウォーターをゴクゴクと口に流し入れたあと、さっきまで一緒にいた部下の白石の顔を思い出す。

それにしても白石もここに住んでいたとはな。
あいつがこのマンションの前で止まった時には本当にびっくりしたよな。
ふっと口元を緩めながらもう一度ミネラルウォーターを口に入れる。
同時に俺は今日の出来事を思い返していた。



「結婚くらい考えるの当然でしょ」

彼女、山崎麗香(やまざきれいか)が俺にそう言い放ったのは、たまたま入ったお洒落なカフェの中だった。普通に座ってるだけでも結構目立つのに、こんなところで感情的になるのは勘弁してくれよな──と思いながら、俺は周りの客このことも考えて「俺は付き合うときに言ったよな。結婚はまだするつもりがないって」と小さな声でそう言い返した。

麗香は俺が今付き合っている女性だ。
いや、付き合っていた女性だった。
3年前、初めて福岡にカフェ ラルジュがオープンする際に客寄せとして地元で人気のあるモデルを起用してオープニングイベントを行った。その時に起用されたのが麗香だった。

地元福岡でモデルやタレントのような仕事をしている麗香は、身長が170cm近くあり、目鼻立ちのハッキリとした美人だった。
ただその時はエムズコーポレーションの会社員とモデルというビジネスでの相手だったが、それから1年後、2号店の福岡空港店を出店する際にも、オープニングイベントに再び麗香が起用された。

お互い顔を合わせるのは2回目ということもあり、前回よりもかなり親しくなった。2回目のオープニングイベント後、麗香からの「付き合ってほしい」という度々のアプローチに、「まだしばらくは結婚するつもりはないけど、それでもいいのなら」ということで付き合ったというわけだ。

麗香の顔は俺の好みの顔とは違ったが、俺としては結婚を求めず、時間が合うときには飯を食って、そしてセックスする──。
そういう女が彼女なら楽だと思って付き合った。
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