愛しの鳥籠〜籠のカギ篇〜


ーーーあの、『始まりの日』から1ヶ月が経った。

アパートは本当にあの日に解約されていて、荷物もユキの言葉通り翌日の朝1番に全部運ばれてきた。

一度没収された身近な持ち物も手元に戻ってきた。

ただひとつを除いては。

それは、ケータイだった。

返して。と、言ったら

「あぁ。あんな物捨てたよ」

と、まるでそこらへんのゴミを捨てたかのようにあっけらかんと言われた。

ケータイがないと困るんだ。と、涙目で必死に訴えると、

「病院の予約サイトとか男関連以外の情報はパソコンにちゃんと保存済みだから大丈夫。ランがこの生活にちゃんと馴染んだら新しいの買ってあげるから安心してね」

わたしの額にキスに落としてそう言ってきた。


ーー最初は、この異常な生活に絶望しか感じなかった。

基本的にわたしは何もしなくていい毎日。

わたしの食事、洗濯、掃除は勿論、

歯磨きや着替え、お風呂でわたしの体や髪を洗うのも全部ユキがしている。

トイレの世話まですると言い出した時は、どんなにユキがごねても頑として首を縦には振らなかったら、3日後にやっとユキの方が折れてくれて心底ホッとしたものだ。

あとは、
「ランが僕にちゃんと心を許してくれるまで」
を期限として、玄関や勝手口の鍵や家中の雨戸を閉めてカーテンも閉めて、そこに二重に三重に施錠をし、その鍵を持って仕事に行ってしまうので、わたしはあの日以来ひとりの時に人や空さえも見ていない。

ユキが一緒の時は、買い足さなきゃいけない衛生用品だったりは外に買いに連れて行ってくれるけど、それでもわたしを極力外に出したがらず休みの日は狂ったように朝から晩までわたしを求めてきて。

わたしは成す術なく、ただただユキの欲を受け入れた。




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