あなたの隣を独り占めしたい(続編まで完結)
3.

空席の埋めどころ

 婚活もマッチングアプリも、何もかもうまくいかなかった私が、唐突に佐伯さんと付き合うことになった。

(本当に? 本気で私のこと、好き……って思ってくれてたの?)

 告白に頷いた後も、ずっとそのことばかりを考えている。

 佐伯さんが本気の恋愛をできずにきたことは、幼い頃からの事情を聞いて納得した。
 そんな辛い過去があれば、女性不審になるのはむしろ自然だと思える。
 私に対しても、あんな偶然が重ならなければ告白まではしなかったと言っていた。

 度重なった偶然に感謝しかない。

(でも、ワンナイトの帝王っていうのは本当だったんだな)

 経験豊富な男性だというのは別に構わないのだけれど、聞いたような深い事情を抱えた佐伯さんを、私なんかが支えてあげられるのだろうか。

 心配をする私を見て、佐伯さんは気が抜けた調子で笑った。

「槙野に支えてもらおうとか、思ってないけど?」
「でも……」
「まずは一ヶ月くらい付き合ってみて、それで合わないなって思ったら戻ればいい」

(ノリが軽……っ)

 真剣なのか、そうでないのか、そのポーカーフェイスからは読み取れない。

「戻れば……って、簡単に言いますけど。私、そんな簡単に好きになったり冷めたりできないですよ」
「は? 俺は冷める気ないよ。続くか続かないか、それは槙野次第なんじゃない?」
「っ!」

 思いの外、本当に佐伯さんは私を好きでいてくれるようだ。
 それは確かなのだろうけど、もしかしたら何か私に対して幻影を抱いているのかもしれない。
 
(だって私は佐伯さんを魅了するような女とは思えない)

 とはいえ、付き合ってみないと合わないのかどうかハッキリとは言えない。
 そう思って、飲みの席でデートをOKしてしまった。

 そして、今日がそのデート当日というわけだ。

 酔った勢いの可能性も考えて、私は次の日まで本気にするのはやめておこうと思っていた。
 なのに、佐伯さんは私がデートをOKした瞬間に日程を調整しはじめ、あれよあれよという間に週末のデートまで約束を取り付けられてしまった。

(嬉しいけど……流れが性急すぎて気持ちがついてきていない)

 気になっている人ではあった。多分好きだという気持ちもあった。
 でも、リアルに彼の隣に立つ人間になるなんて……想像もしてなかった。

(考えても仕方ない。今はとりあえずデートを楽しむことだけ考えよう)

 心を決めた私は、迷いなくてきぱきと身支度をした。
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