それは夕立とともに

そもそもの目的は



「……1、2、1、2、2、5、2」

 五分前。俺は黄緑色の硬い受話器を耳に押し当てながら、丸いボタンを慎重にプッシュしていた。

相崎(あいざき) 栞里(しおり)ちゃん……、好きです」

 そう告げるものの、公衆電話の受話器は無音に満たされ、うんともすんとも言わない。

 硬貨もテレホンカードも使っていないのだから当然だ。

 胸の内に溜まった熱い吐息を足元に落とし、俺は受話器を元の位置に戻した。

 やる事はたったこれだけなのに、心臓の鼓動が半端ない。体の内側からドンドンと誰かに叩かれているみたいだ。

 高校からの帰り道。

 下り坂が続く住宅街を抜け、広い川に架かる橋の手前に、この電話ボックスは建っていた。

 学校からここに辿り着くまで商業施設はおろか、コンビニすらないど田舎で、撤去されるのも時間の問題ではないかと思われるのだが。電話ボックスはもう何年も前からこの風景に溶け込んでいるらしい。

 たった今俺が試した"おまじない"が電話ボックスを残すのに影響しているせいだ、と何の根拠もなく言い張ったのはクラスの女子たちだ。
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