京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

就職する

はっと大きく息を飲んで上半身を起こした春菜は今みたものを反復していた。


走馬灯のように蘇ってきた自分のあられもない失態の数々に血の気が引いていくのを感じる。


「春菜さん、大丈夫ですか！？


その声に視線を向けると心配そうな表情の純一と皐月がいた。


自分はいつもの部屋の布団に寝かされていて、黒田と会った後にひどく頭が痛くなってここまで運ばれたことを思い出した。


「だ、大丈夫です」


もう頭痛はしていない。


「なにか思い出すことがあったんじゃないの？」


皐月にそう言われて春菜葉グッと返事に詰まった。


思い出すことは色々とあった。


この松尾旅館の路地で気絶してしまう原因まで、全部だ。


「その顔は、なにか思い出すことがあったんですね？」


純一にも聞かれて春菜は渋々頷いた。


「話して聞かせてくれますか？」


その質問には首を横に振りたかった。


でも、ここまでお世話になった純一と皐月に説明しないわけにはいかない。


春菜は大きく息を吸い込んで口を開いた。


「お恥ずかしい話しなんですが、実は……」