京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
できる
午前中の仕事は清掃で始まり、清掃で終わった。


といっても診療所から戻ってきてからなので大した時間はかかっていない。


できなかったところは普段の清掃員さんがしてくれるみたいだ。


午後からの業務の説明を聞くために事務所へ入るとちょうど板長のマツさんが純一と話をしているところだった。


「いいですね。今回はそのおしながきで行きましょう」


「よかった」


ホッとしたようなマツさんの声に近づいていくと、イラスト付きの料理の説明が書かれた紙がデスクに置かれていた。


「それ、新しいレシピですか？」


「あぁ、春菜ちゃん。ちょうど良いところに来た。今から試作品を作る予定だから味見してくれるかい？」


「え、私がですか！？」


春菜は驚いて自分を指差した。


そういうことはもっと偉い人たちで行うものだと思っていた。


「いいですね。試食はできるだけ沢山の人でしたほうがいい。どうですか春菜さん？」


純一に聞かれて「わ、わかりました」と、大きく頷く。


マツさんの作る料理は絶品だとすでにわかっているから、断る理由もなかった。
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