愛してしまったので離婚してください
雅は≪倉前≫という苗字を捨てて、≪藤川≫になった。

お見合いするときにはすでに私の父の勧めと手助けがあって、雅はニューヨークの大学病院に留学することが決まっていて、結婚式を挙げてから数週間後には私たちは一緒にニューヨーク行きの飛行機に乗り込んでいた。

約15時間かかったニューヨークの家まで道のり。
私たちはほとんど話をしなかった。
せいぜい何かを渡して「ありがとう」や「どういたしまして」と言ったり、前を通るときに「失礼します」と「いいえ」なんて社交辞令的な挨拶程度しかしていない。

雅はフライト中は何やら難しい英語の医学書を、瞬きすらほとんどせず険しい顔でよんでいて、私は映画を観たり、うとうとと眠っていただけだった。

私たちには、現地のコーディネーターが借りてくれた古い5階建てのビルの中に2LDKの部屋が用意されていた。
でも、雅はその部屋の中に入ってすぐに自分の手荷物の中から必要なものだけを手に、病院へ行ってしまったことを今でも鮮明に思いだす。
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