2章・めざせ転移門~異世界令嬢は神隠しに会う。

未来で語られる昔話

マーシャは
ラジとレサが懐かし気に話す
ガルゥヲン皇子の母親である
マイケルが、
初めてギルドへやって来た様子を
聞いて、
思わず黒髪の下、
自分の耳を
触った。

そこには木目調の玉が
海神ワーフエリベスを表す
銀の尾びれ細工の
下で艶めくピアスとなって
付けられていた。

「あら、丁度マーシャちゃんの
ピアス。虹色珊瑚じゃない?」

若女将のロミが、マーシャの
指先に目を止めて笑う。

「お?!マジか?生意気だぞお
マーシャ!レインボーコーラル
を虹加工しないで、ウッド加工
した玉なんざあ、渋い真似しや
がって。なあラジ!ホラよ。」

副長レサがロミの言葉に反応して
片眼鏡をピアス向け、
魔力反応させると、
ラジの額に手を掲げる。

「ん。確かに随分上質の奴を
敢えてウッドのまま研磨をして
いるのか。ふん、ルゥからか。」

ラジの指摘で、マーシャは
恥ずかしげに口の前に
拳を当てて、

「う、ん。前にルゥがくれた
んだけど、、そんな凄い玉って
知らなくて、、なんか地味だな
とか、ちょっと思ってた。」

耳を染めて答える。
そんなマーシャをニヤニヤと
眺めるレサが

「まあ、ほっんとに希少なモノだ
かんな、レインボーコーラルは。
でも、オレ様だって持ってる
ぜぇ。ほら、チェーン飾りだ。」

そう言って片眼鏡のチェーンに
ついた飾りを手で振って
マーシャに見せると
得意げに髭を撫でながら、

「ラジは、煙管の胴飾りだよな」

ラジに振った。

レサのチェーン飾りは
銀細工の三日月に
小ぶりの
虹色珊瑚が揺れるデザインで、
夜色の黒珊瑚に
挟まれている。

マイケルが
元世界の知識からもたらした
珊瑚の加工方法により、
新たに調整世界に生まれた
ブラックコーラル、
それだ。

そして、
ラジが徐に
懐から出した煙管は
煙口と吸い口が金龍細工。
胴管に長い虹色珊瑚を
あしらった物だった。

どちらも一目で一級品だと解る。

「宝飾の中でもレインボーコーラ
ルは、見た目の粋と、水の中で
変化するギャップが男受けする
珍しいジュエリーになった。
マイケルがよく、『詫び錆び』
があるとか、言ってたが、
知っているモノだけが価値を
知る。そんなコーラルだろう」

ラジは意味深な笑みを
マーシャに向けてレサに返した。

「ようするにルゥは、随分
生意気な小僧になりやがった
つーこっただよ。ヤケラもな」

話のお鉢を、回されたレサは
忌々しそうに
娘でもあるロミの耳を顎で
しゃくってマーシャに

「ヤケラが、ロミにやりやがった
ファーストジュエリーな!」

キザな真似しやがってと愚痴る。

「な、いつの話してんだよ!
レサ義父!時効だろ!!」

「うるさい!このマセガキが!
10になったかぐらいのガキが
レースコーラルのピアスなんざ
いっちょ前にわたしやがって!」

そういうと、
レサは義理息子ヤケラの頭を
何度も小突き回した。

「いいなあ。レースコーラル。
女子の憧れだもん。
本当はコレより、白くて
フリルローズみたいに可愛い
レースコーラルがいいなぁ。」

思わずマーシャが口にするのは
レースコーラルに纏わる
暗黙の約束事だ。

見た目の可憐さと、
真っ白な色がマリッジホワイトを
連想させるレースコーラル。

男性が将来を共にしたい程の
思いで告白するアイテムとして
流行るようになっていた。

ロミの耳を飾る
まるでレースでつくられた
小さな小さな薔薇。

レースコーラルのピアスに呟く
マーシャの頭を
ロミがポンポンと撫でると

「さあ、ルゥにお昼を差し入れ
するんでしょ?そろそろ海から
上がってくるんじゃない?」

持って来たバスケットを示して
海を指差す。

「あ!本当だ!タイミングが
合わなかったら、すぐ何処か
消えられちゃうから、待ち伏せ
しないと。ロミさん、 いつも
有り難うね。助かりますっ。」

マーシャは
ロミから受け取った
バスケットを手に
頭を下げると飛行はせず、
自分の足で走って
浜辺へ向かって行った。

その後ろ姿を見送りながら
レサが髭を片手で撫でながら
タメ息をつく。

「ルゥの奴、どーする気なんだ?
最近はマーシャと、あんまり
イイ感じじゃあねーんだろ?」

そんなレサにラジが

「ルゥなりの考えだろ。」

とだけ答えて今度は
盲しいても
鋭い気迫を湛えた視線を
ヤケラに向ける。

「王領、いや王帝領の様子は?」

「、、それが。父さんの懸念が
当たってたよ。このスカイゲート
じゃ、まだそんなに噂になって
ないけど、王帝領の辺境じゃ
話がチラホラ出てるみたいだ」

若長としてヤケラは
このスカイゲートの下降と同時に
副長レサと共に、
王帝領へ調査に出ていたのだ。

「ラジ、さっきの近見の力。
俺の魔力からだったんだが、
さすがに俺も気になってよ。
僅かだが、確かに減ってきて
んだよ。一体どーなってんだ」

ラジは、
腕を組んで 閉じた瞼をさらに
思考に静めるかにしている。

ラジの眼は弾けてしまい、
視力は無くなってしまったが、
その分、見えない磁場のような
気流を感じる様になった。

普段、必要であれば
さっきのように
レサの片眼鏡に連携させた
近見の能力で
ラジの脳内に直接視界を
見せる事も出来る。

「外敵の攻撃。呪い。もしくは、
次元津波のように、なんらかの
現象なのか。わからん。
わからんが、この下界下降で
感じたのは間違いなかったとい
う事だな。、、大事になる。」

カフカス王帝領が纏う
魔力量が薄まり始めている。

ギルドの長、
元英雄の勘が警鐘を鳴らす。
マスター・ラジは
鬣のような髪にオーラを湛えて、
次の言葉を発した。

「スカイゲート全ギルドに、
通達!総力を海へ!水龍の骨を
根こそぎ採取!下降期間のみ
時間しかない。レサやるぞ!」

副長レサをはじめ、
若長ヤケラ
ギルドを預かる若女将ロミ達の
喉がゴクリと鳴った。


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