2章・めざせ転移門~異世界令嬢は神隠しに会う。

動き出す、マイケルと革命の石

ザーーーーーーーーーーーーー

海辺のギルドは
既に浜で貼っていたテントを
畳み、雨音が激しくなる
今まさに
通常業務のまっ只中。
大いに賑わい、
ごった返していた。

夕方過ぎからは
巡礼者が、
宿にする為のベッドに並ぶ傍ら、
巡礼中で獲った物を
カウンターへと鑑定に出しては、
路銀に替えるからだ。

巡礼ベッドのカウンターでは、
ルルがてんてこ舞いで、
おさげ髪を振り乱しながらも、
巡礼者を受付ている。

そんな賑わいを見せる中で、
マイケルはヤオを連れ
冒険者や島民に混じりつつ、
鑑定カウンターの
目利き人
ワズを相手にしていた。

「魔力持ちから、相手の容量に
合わせて魔力を、付加する事は
一時的には、出来るんだよね?」

マイケルは
ワズの前に出した、
ピンクに発光する玉を
自分の指先でつつく。

「それでよ、これが魔力を貯め
た物なの。しかも、ここに貯めた
魔力を吸い出して使えるのよ。」

マイケルの前に立つのは、
ギルド内で一番長く目利きをする
白髪の老人だ。
そして今、
白髪の老人は目を目開いて、
マイケルの言葉に絶句している。

マイケルは敢えて
この重鎮を選び、
ヤオの能力を貯めた水龍の骨を
鑑定に出した。

「いや、マイケルよ。ホントに、
そんな事が出来ちまってるが
か?確かに、こんな物は見た事
が無いじゃが、信じられんな」

ギルドでも
ラジ長や副長レサの次に席する
老人ワズの、
長い鑑定経験に
マイケルは
『魔力込め水龍の喉仏の骨玉』
をぶつけたのだ。

ワズは見た目から仰々しい
鑑定眼鏡を懐から取り出すと
マイケルが出した
ピンクの発光玉を、
じっと観察する。

「間違いないはず。なんなら、
ワズが魔力を取り出して
確かめて見てよ。ここには、
ヤオの『遠見』が入ってる。」

カウンターに置いた玉を
指の間に挟んで、
マイケルは
わざとらしく
ワズの鑑定眼鏡の前グイグイと
近付けた。

「何?!ヤオはまだ魔力の付加
なぞ練習してないだろうが!」

ワズが、眼鏡を頭に押し上げて
マイケルの台詞に、
再び驚きの声をあげる。

「間違いなく、ヤオが付加した
んだよ。ね、凄くない?これ」

「ヤオ!コロコロしたー!」

マイケルが、口を弓なりにして
頷く傍らで、
ヤオが両手を広げてワズに
一人前に説明をしようとする。
ワズは、
そんなマイケルとヤオを交互に
見て、
眼鏡を外すと、興奮で熱い
ため息をついた。

「間違いなく『遠見』能力が
込められとる。こりゃ、長を
呼ぶ大事だぞ、マイケル。」

そう言ってワズは
「特別じゃ。」とマイケルに、
決して人には貸さない
鑑定眼鏡を渡してきたのだ!

魔獣石から造られる、
魔具の1つ、
鑑定眼鏡は貴重な眼鏡で、
ワズの眼鏡は中でも群を抜いて
貴重な品。

「凄い!!ヤオ!見て!」

鑑定眼鏡を覗いたマイケルは、
初めて見た光景に驚いて、
ヤオに眼鏡を掛けさせた。

顕微鏡の様な視界で見た
玉の中には、無数の結晶型の
陣が鱗のように並んで
輝く。

「ほわぁ、しゅごいの!」

角度を替えると万華鏡世界に
入り込んだ錯覚になる
美しさに、
ヤオも
眼鏡を覗きながらも、
うっとりとした声を上げた。

「魔獣石の陣はまるで、
生き物の血潮に似た陣が見える
が、この石はまた違う風に、
陣を閉じ込めておる。こんな
配列は儂でも初めてがの。」

改めてヤオがマイケルに
鑑定眼鏡を渡すと、
もう一度マイケルは中を
瞳を輝かせて覗く。

「陣を見れば、力の種類が解る。
しかし、力を複合させると、
陣も複合される。儂ら鑑定は、
陣が破綻してないかを確認して
魔具の価値を決めるんぞ。」

ワズは、マイケルとヤオから
鑑定眼鏡を取り上げて、
再び自分が覗き込んだ。

「陣を見れば能力の優劣、魔力の
量もわかるんぞ。しかし、
ヤオ、お前さん大した量持ちだ」

漸く落ち着いたワズは、
ヤオの頭をくしゃくしゃと
撫でながらながら、
ヤオにニカリと笑って、
頭に引き上げた眼鏡を指差す。

「大型魔力発動の時に魔法陣が、
目に見える事があるが、魔獣石
の魔力陣が見える眼鏡は、
なかなかないのぞ?そして、
この石には、しっかり遠見の陣
が内蔵されとる。間違いなく、
魔力が込められたモンだぞ。」

ワズの最終勧告ともいえる
感嘆の声に、
マイケルが「よしっ!!」と
ガッツポーズを取ると、
ヤオが手を叩いて、

「マイケルしゃん!にかい!」

乳歯が抜けた隙間を
全開で見せると、
上を差しながら踊り喜ぶ始末。
とうとう、
そんなマイケルとヤオの様子を
隣のブースから
覗き見ていた
冒険者が大声を上げた!

『おい!マイケル!ヤオ!
もしかして大物見つけたか!』

瞬間、聞き付けた別の男が、
マイケルとヤオのブースに
飛んでくるのを合図に、
ごった返していたギルドが
騒ぎで揺れて、
たちまち
カオスになっていく。

『いつぶりだ!!マイケルが又
デカイ交渉をするなんざ!!』

誰が叫ぶと、
あっという間に
我先にと
マイケル達のカウンターに
人が、集まる!

海を統べるギルドでは、
1年前にマイケルが持ち込んだ『コーラル』が
今でも伝説の交渉と
謳われている程なのだ。

『次は何だよ?!ワズ!』
『おい!見せろよ!そこのを』

ビックドリームが生まれる瞬間か
と、それまでベッドに並ぶ
巡礼者まで、
何事かとカウンターにやって
くる始末。

「黙れ!!もしも交渉が決まれば
『コーラル』なぞ目じゃない、
大物じゃ!しかも、これから
島は忙しくなるぞ!老いも若き
も、皆がな!!まずは、
マイケル!2階へ上がれ!!」

『ガラン!!ガラン!!』

ワズが、大声を上げて場を
制したと同時に
カウンター中央の大鐘を鳴らす。
ワズの声で
静まったのは一瞬。

大鐘の響きで、
すぐにギルドは爆発的な熱狂に
包まれた!!

『ホントか?!すげーことになる
んじゃねーか?!おい!!』

『オオオオー!!大鐘でたー!』

『マイケル!!頑張れよ!!』

カウンターホールが
昼間のアンバー採りとは、
比にならない祭具合になる。
まさに外の雨嵐を
かき消した!!

『2階に上がる。』

という事は、
鑑定による買取りではなく、
大きな商談交渉が始まる合図が、
大鐘で
ギルド中に知らされたという事。

奥の厨房からでさえ、
コック長のボノが、他の見習いと
一緒にフライパンを
片手に出てきて、

「マイケルが大鐘だと!」

慌てふためいている。
どこからも、一斉に顔を出す中、

中央の階段から副長のレサが
現れた。
ワズがマイケルを示す。

「おいおい、大鐘はマイケルか?
昼間に指輪と貝しか獲物が
なかったんじゃねーのかよ?!」

レサが片眼鏡を直しながら、
大階段の上から
マイケルの手元を一瞥した。

「悪いけどレサ、あたしの
大鐘は、コイツでお願いしたい」

すかさずマイケルは手にした、
ピンクの発光玉を
レサに向けて掲げた。

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