2章・めざせ転移門~異世界令嬢は神隠しに会う。

マイケルとワーフ・エリベス像

マイケルは
ルークを置いてきぼりにして、
教室を出た事に
気がついておらず、
そのまま
ギルドの教室から一旦階段を
降りて外に出る。

『ヤオー!こっち、こっちだ!
舟がとんでるぞ!早く!』

『すごーい!ほらヤオっ!』

マモ達がヤオを呼ぶ声が聞こえ、
マイケルは声のする海側を
眩しそうに、眺めた。

海際に立つギルドからは、
この時期、
不思議な光景が見えるのだ。
まるで、
海から舟が飛んで浮かぶ様に
見える。
蜃気楼だ。

「浮島現象ってやつね。生誕日に
なると起きるってやつ。もう
2度目みているのに不思議ね。」

この季節のウーリゥ藩島の夕方は何故か明るい。

陰る午後の日差しの中に、
海から浮いた舟達が、
たくさん見えて幻想的だ。

この蜃気楼が出る頃。

そう、
明日は島中に建てられる、
海神ワーフエリベスが誕生した日
として、島の寺院では礼拝が
行われ、島中で祭で賑わう。
その為か、
この日に起こる蜃気楼を、
『セント・ミラージュ』と
藩島民は呼ぶのだ。

「ツッチーナシュウ地区の
グランド・エリベスに行った
のも、生誕日だったっけ?」

そうマイケルは呟いて、
今度は山側を見た。

ツッチーナシュウ地区は
1つ隣の集落で、
王都に開くバリアロードがある
地区だ。
その産地に立つ、巨大な像。
このイェンダ地区からも、
ワーフ・エリベスが掲げる
銛の先端が見える。

「どれだけ大きいのよ。」

水龍の骨を魔充分石とするまで
マイケルは、
ウーリゥ藩島中を、ヤオを連れ
歩き回った。

『マイケルさぁーーん!』

マイケルの姿を見つけたヤオが、
波除の壁から
大きく手を振るのに、
マイケルも応える。

「ヤオー!気を付けてねー!」

かつて、
魔力のないマイケルでも出来る
仕事が
ギルドで出されれば、遠くとも
依頼を受けに行った。
そのついでに、
島中のパワースポットを見に
行くのだ。

このカフカス民一族にだけ、
魔力が備わる理由を見つける
為に。
その先に、魔力を貯める方法を
探しだせたらと、
あの頃のマイケルは考えていた。

「結局、魔力を貯める魔充石の
方が早く見つかったけど、
ここの人達が魔力を持つ理由は、
まだ形になってないんだよね。」

(そう、まだ形にならない。
けれどモヤモヤとした蜻蛉
みたいな片鱗は見えた気がする)

そのきっかけになったのが
ツッチーナシュウ地区にある、
グランドワーフ・エリベスだった。そして、、、

「マイケル?」

不意に呼ばれ振り替えると
ルークの姿がある。

「あ、ルーク?あれ?あたし、
ルークを置いて出てたんだ?
ごめんね、ごめんねっ!!」

「いや、俺も考え事をしていた。
ああ、セントミラージュか。」

教室から降りてきたルークが、
まだ佇むマイケルに追い付き、
隣に並ぶ。

「あたしは、聞いただけだけど、
セント・ミラージュって、
もっとロマンチックな感じで
見るものなんでしょ?ルークも
何が好きで、この日にギルド
会議なんて出てるのかなあー」

「それは、お互い様だな。」

「あたしは、いいのよ。生活改善
で今は精一杯だからさ。ヤオだ
って、ようやく普通に魔法を
学べる様に出来たばかりだし。」

「生活改善とは、魔力なしでも
ってことか?何もそこまで、」

(本当に、こんな風にジョーク
交えて話せる関係を持てるのも
魔充石が、出来てからだよね。)

どこか哀しげな視線を見せる
ルークに、
つい、マイケルは苦笑する。

マイケルはルークと、
ギルド正面に回って歩く。

「さっきルークも読んだでしょ?
これから、あたしが会議にかけ
る事って、まさに魔力に関する
依頼なんだよ?住民権を得られ
たけれど、これから話す事って
あたしが言えた義理じゃない
って、一番あたしが分かってる」

マイケルは手にした束を、
片手で示す。

「逆に言うなれば、魔力のない
立場の君が、この国の未来を
案じているという事でもある。」

どこかいつもより、
弱気なマイケルの瞳をルークが
見据えた。

相変わらず、
セントミラージュを見て騒ぐ
子ども達の声を背中に、
マイケルとルークはギルドの
正面入り口を入った。

ギルドは年中無休。
会議があるとしても、
ギルドの1階ホールは大賑わいを
みせている。

「そんな大それた事は、考えて
ないよ。今度だって自分の為に
してきた事の延長なだけだよ。」

ギルドの真ん中にある螺旋階段は
特別な階段で、
普段は使わない。
普段2階へ上がる時は、
脇にある階段を昇るのだ。

『お、マイケル!今日は会議か?
今度何かあったら、教えくれよ』

マイケルが階段を上がるのを、
ホールから冒険者の1人が
見て声を上げる。
マイケルは片手で丁寧に
応えて、ルークと2階へ上がり
切る。

2階に上がるだけで、
会議の部屋のざわめきが漏れて
聞こえてきた。
藩島中のギルド代表者がいる。

「それでも、チャンスはマイケル
に付いているはず。今日ほど、
その話をする絶好のタイミング
はないのだから。そうだろ?」

ルークが、レディファーストで
マイケルに、ドアを開けながら
顎をしゃくる。
会議室には、
海神を讃える飾り付けが
そこかしこにされて、
今日は絢爛なほどだ。

「そうね、そうかもしれない。」

マイケルはルークに笑顔を見せて
会議室に居揃うギルド代表者の
視線を受け止めた。

「本日はセントミラージュが
起こる生誕日前日に、集まっ
て頂き有り難うございます。
通常会議の前に、魔充石の
新たな運用について、主に国防
の観点から提案がございます。
皆さんは海神ワーフエリベス像
が、島にどれだけあるか御存知
でしょうか?実は11000もある
のです。では、その理由は?
11000人の魔導師魔力量で、
藩島の
結界を維持できるからです。」

いつもの会議前の雑然とした
雰囲気は一切なく、
ギルド代表者全員がマイケルの
事前宣言に耳を傾ける。

「そして、その寿命もしかり。
11000人の平均寿命分が、
結界の寿命と考えられます。
ということは、誰しも1度は、
結界寿命のタイミングに出会う
ことになります。次は何時か?」

そしてマイケルもまた、
全員の視線を受け止めて、
一呼吸をおくと
ハッキリと言い切った。

「少なくとも10ウー以内。
早ければ、5ウーでしょう!」

マイケルの後ろで、
ルークが息を飲むのが聞こえた。



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