ロート・ブルーメ~赤花~

養父

 街の出入り口まで送ってくれた紅夜はどんな問題が起こったのかちゃんと話してくれた。

 もしかしたら理由も知らされずに帰されてしまうのかと思っていたので、それは良かったと思う。


「三日前、美桜達を襲った男がいるだろう?」

「うん。確か会合でその中の一人が逃げたって……」

「ああ、よく覚えてたな」

「そりゃあ……」


 ただでさえあたしは忘れることはあまりないし、あの時のことは紅夜が本気で怒ったことでもあったから記憶は鮮明だ。

 ましてつい昨日のこと。
 忘れるわけがない。


「しかもよりにもよってリーダー格の奴が逃げたらしくてな。まだ街のどこかに潜伏してるみたいなんだ。美桜が人質に取られたらたまらないから、今日は帰ってくれ」

 あたしの手を引きながらそう説明してくれた。


「そっか、分かった。……ちゃんと話してくれてありがとうね、紅夜」

 お礼を言って、了承する。

 ちゃんとした理由が分かっていれば、不満はない。


 でも紅夜は不満があったみたいだ。

 出入口近くになって足を止めると、明らかな不満顔で見下ろされる。


「……今晩だって、本当は離す気なかったってのに……」

 その言葉はあたしの予想通りで、嬉しく思う反面体力が持たないとすぐに判断する。

 きっとその通りになったら、早々に白旗を振りたくなっただろう。

 そう思った。
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