話に花を咲かせながら、ふたりは中庭に向かう。その途中、とある回廊に差し掛かったときだった。
「我慢なりません。お助けください、セルジュ様!」
角の向こうで響く男の声。顔を見合わせてから、マージェリーとフローラは壁にぴたりと張り付く。そして、そっと角向こうを覗いた。
そこにはやはりというか、別れたばかりのセルジュがいる。彼は困った顔で誰かに耳を傾けていた。
(あの後ろ姿は……フリード大臣?)
小柄で太っちょなその背中。儚げな美貌のティタニア太后殿下とは似ても似つかないが、太后の弟で外務大臣のルチアス・フリードだ。
隣国アグリナから太后が嫁いできた際、一緒にこの国に入り、ルグラン王家の家臣になった男。
セルジュを次王にと推していた筆頭であり、現ユリウス王との軋轢も多い。