ユリウスが笑える世界線があればよかったのに。誰かが、ユリウスを救ってくれたらよかったのに。
その時、どこからか声がした。
――誰かに任せちゃっていいの?
本を置いて、起き上がる。あたりを見渡しても、映るのは見慣れた自分の部屋だけ。お気に入りのクッション。積まれた読みかけの本。犬のプリントのマグ。食べかけのクッキー。
――その『誰か』にならなくていいの?
ユリウスを好きなのは誰? ユリウスが好きなのは誰? 笑顔を向けるのは? 笑顔を向けられたいのは?
あの人と、幸せになりたいのは誰?
立ち上がった拍子に、鏡に人影が映りこんだ。見えたのは、だぼだぼのパーカーワンピにお団子結びの『自分』じゃない。腰に届きそうな輝く銀髪に、上品なドレスをまとった見たこともない少女。