前髪をちょいちょいと整え、深呼吸をひとつ。はやる気持ちをこほんと咳払いで宥めてから、しかし瞳を恋にきらきらとさせ、マージェリーは輝く笑みで扉に手をかける。
――この時、マージェリーは油断しきっていた。彼女にしてはうかれていたのだ。それくらい、今日という日を楽しみにしていたから。
「ユーリ様?」
何も疑わず、マージェリーは扉を開ける。艶やか黒髪に赤い瞳をした若き王が、優しく微笑んでくれていることを期待して。けれども開いた扉の先にいたのは、大好きな彼ではなかった。
ぐいと腕を引かれ、部屋から引き摺り出される。悲鳴をあげようとした口を大きな布で塞がれた。甘ったるい香りにむせかえる心地がして、急速に視界が歪み始めた。
いつだってそうだ。マージェリーは詰めが甘い。後一歩のところで、大事なものは指の間をすり抜けていく。
ユーリ様とパーティ、楽しみにしていたんだけどな。
そんなことを思いながら、マージェリーの意識は混濁の中に呑まれていったのだった。