思わずマージェリーは目を瞑る。やがて恐る恐る瞼を開いた彼女は、ふぁさりと揺れた毛並みに唖然と息を呑んだ。
艶やかな黒髪から突き出す、黒い毛並みに覆われたとんがり耳。これ見よがしにゆらゆら揺れる、柔らかそうなふさふさの尻尾。
あんぐりと、マージェリーは口を開ける。
――先祖返り。黒髪の王族だけが取れる、初代オオカミ王と同じ半獣の姿。小説においては物語の終盤、重要なシーンでたった一度だけ披露される。
それを惜しげもなく晒しておきながら、ユリウスはなぜか得意げに、本物の狼が獲物を見定めるように目を細める。
「いいか、マージェリー。ユーリだ」
「へ? あ、え?」
「ユーリ。私を呼ぶときは、陛下でもユリウスでもなくそう呼ぶように。君の特権だ」
なにそれ恐い。そう顔を引きつらせるマージェリーの銀髪をひと房取り上げ、ユリウスは口付ける。
カチンと固まる彼女に、彼は八重歯を見せて獰猛な笑みを浮かべた。