とんでもないことを言いだしたユリウスに、マージェリーは胃がぎりぎり痛んだ。父は今や、殺気の籠った目で両手をワキワキさせている。一流の猟師に道具はいらない、素手で事足りると言わんばかりの殺気である。
と、その時、ふいに小さく噴き出す音が響いた。はっとして視線を戻せば、ユリウスがくつくつと肩を震わせて笑っていた。
「く、ふふ。はは、……!」
素が垣間見える楽しげな横顔に、不覚にもマージェリーはどきりとしてしまう。同時に気付いた。なるほど。王はジョルダンの視線に気づいたうえで、からかって遊んでいたのか。
(やめてよ、心臓に悪いから……)
げっそりとして、マージェリーは肩を落とす。心臓に悪ければ、胃にも悪い。なんなら、すべての臓物にガタがきそうである。
そんな風にマージェリーが疲れていると、ひとしきり笑い終えたユリウスが、愉快そうに彼女を見た。
「と、言うわけで、このままでは会話もままなりそうにない。茶の準備をさせているんだが、そちらに移らないか? 君に、『依頼』の内容をきちんと伝えたいんだ」