社長はお隣の幼馴染を溺愛している

幼馴染みは社長

「志茉(しま)、聞いてくれ！　沖重(おきしげ)の社長に抜擢された！」

　幼馴染の仁礼木(にれき)要人(かなめ)は、私が住むアパートの隣にある豪邸のお坊ちゃま――とはいえ、もうお坊ちゃまなんていう年齢ではない。
　私より年上のいい大人のはずなんだけど、部屋に飛び込んできた要人は、無邪気に昇進を報告し、夕食を食べる私の前に、ちゃっかり座った。

「要人。私、夕食中なんだけど」
「あ、悪い。志茉にすぐ教えたかったからさ」

　――世の中、本当に不公平だと思う。

　私、倉地(くらち)志茉(しま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身で古いアパート暮らし。リフォームすら、難しい年代物のアパートだ。
　引っ越さないのは、このアパートには亡くなった両親の思い出が残っているから。
　そして、大学の奨学金の返済のため。
　私に昇進を報告した要人は、大病院を経営する親がいて、お兄さんは外科医。お兄さんが、仁礼木家を継ぐことが決定していて、次男の要人は自由気ままに暮らしている。
　すでに実家とは別に、マンションも所有しているとか。
　羨ましい限りの環境に、ため息が出る。