社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 立ち上がり、小さな台所の食器棚から、要人が使う専用の茶碗と箸を取り出した。
 結局、今日も追い帰せず、夕飯を用意してしまう。
 招き猫の貯金箱に、五百円玉を入れた音が響いた。
 夕飯一回に付き五百円。
 要人はもっと払うと言ったけど、それは断った。
 私が作るものは、質素なものばかりで、明日のお弁当のおかずにもできるようなものが多い。
 牛肉とゴボウを甘辛く炒めたものと味噌汁、ご飯とほうれん草のお浸し、玉子焼きを並べる。

「志茉。俺の分の夕食、作ってあっただろ」
「ないです」
「いや、あったね。一人分でこの量はおかしい」

 大盛のご飯に、多めのおかずは見るからに多かった。
 それでも、私は意地でも認めない。

「要人が来なかったら、お弁当にするつもりだったのよ」
「ほらな。志茉は俺が来るかもって期待してた」
「誰が期待してたよっ! 私をイラつかせるのだけは、社長どころか会長級ね!」
「それはどうも」

 温めた味噌汁を私から、受け取り、要人は勝ち誇った顔で笑った。

「志茉の卵焼き、好きなんだよな。甘くて、どっしりしてて、食べごたえがある」
「そ、そう……」
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