社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 普段なら、静かな会社エントランスに高い声が響く。

沖重(おきしげ)の営業の方って、とっても素敵だって聞いてたんですよ~! だから、お会いするの楽しみだったんです」 

 湯瀬(ゆぜ)さんと話をする女性が一人。
 ブラウン系の髪に、ピンクのジャケット、白のワンピーススーツの華やかな姿。
 沖重グループ本社では、見かけない色合いのスーツに、私と恵衣は足を止めた。

「見ない顔ね」

 受付の恵衣が見たことがないというのなら、社員ではなさそうだ。
 私と恵衣に気づいた湯瀬さんが、手招きをする。

「葉山、倉地(くらち)。こちら扇田(おおぎだ)工業のお嬢さんで、扇田(おおぎだ)愛弓(あゆみ)さん。社会勉強のため、今日から沖重の秘書課で働くそうだ」
「よろしくお願いしまーす。愛弓(あゆみ)、働くの初めてだから、緊張しちゃって。湯瀬さんに相談に乗ってもらっていたんです」

 にこにこ笑顔で、湯瀬さんと楽しそうに話している姿を見る限り、愛弓さんが緊張しているようには見えなかった。
 
「いえ。こちらこそ」

 当たり障りない挨拶をし、立ち去ろうとした私の腕を恵衣が掴む。

 ――なっ、なぜ?

 恵衣は受付でよく見る笑顔を浮かべ、愛弓さんに言った。
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