社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 早口で言って、この場から立ち去ろうとした。
 それなのに、要人は私の腕を掴んで放さない。

「志茉。他に言いたいことあるだろ?」
「ない……」
「嘘つきだな」
「それはお互い様でしょ! 要人だって、私に内緒にすることくらいあるんだし……」

 言ってしまってから、失敗したと思った。
 要人の結婚相手になりそうな人を気にしていると、言っているのと同じ。
 要人は有無を言わさず、強い力で抱き締めた。

「か、要人……?」

 私たちは一定の距離から、絶対に近づかなかった。
 まるで、暗黙のルールのように。
 それを要人は、一瞬でルールを破り、私の耳元で囁いた。

「俺が好きなのは志茉だからな」
「今、言うことじゃないでしょ? 要人、どうしたの?」

 腕から逃れようとしても要人は放してくれなかった。
 私の髪に顔を埋め、唇がうなじに触れる。

「や、やめっ……! ふざけてるの?」
「ふざけてなかったら、いいのか?」
「本気だったらいいって、意味じゃなくて……」

 指が体をなぞり、耳朶を甘く食む。
 私の体を机に押し付け、ブラウスのボタンに指が触れる。

「これ以上するなら、もうアパートの部屋には入れないわよ!」
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