純愛
夏休み前の終業式。地元のバス停に着いて、そのまま帰らずに俺達三人はベンチに座っていた。
十二時前に学校を出て、そこから一時間バスを待つ。中学校がある町までが終点のバスは一時間に四本くらいはあるのに、そこから先のバスは一時間に一本、良くて二本だ。
乗客が少ないと、交通の便はグッと悪くなる。そんなんだから町自体がどんどん廃れていくのに。
ようやく来たバスに乗って、更に約一時間。もうすぐ二時になろうとしている。ここまで来たら小旅行だ。

終業式前にようやく明けた梅雨は、例年通りの猛暑を連れてきた。あんなに天気が悪いことを怒っていたつばきは、猛暑に対してますます腹を立てている。カンナが「そんなに怒ったらもっと暑くなるからやめて。」と宥めている。

俺の気持ちは、あれからさほど変わっていない。カンナに対する小さな嫌がらせは、小さいけれどまだ続いていて、そのほとんどが最初と同じような嫌がらせの紙切れだった。
あの嫌な赤は、付着したりしていなかったり。

これ以上何もしてくる気配が無いからいいよとカンナは言うけれど、「これで終わり」なんて保証はどこにも無い。そんなことは犯人にしか分からない。
赤が付着している時には、決まってつばきの体のどこかしらに絆創膏が増えた。
カンナだって気づいていないはずは無い。もしかしたらカンナも犯人がつばきであることを自覚していて、つばきはこれ以上酷いことはしてこない、ただ拗ねているだけだと思っているのかもしれない。

つばきはハッキリとは言わないけれど、相変わらず、気づいている素振りを見せながら、行動を起こさない俺のことを楽しんでいる様に見えた。日に日に場所を変えていく絆創膏を隠そうともしない。
つばきの白い肌は、絆創膏が剥がされた後、かさぶたになっていたり、切り傷の痕になっていたり、綺麗に消えている時もあったけれど、「怪我をした痕」が残るようになった。
そんなに深い傷ではなくて、まるでカッターナイフでサッと引いた様な一本の筋。
制服も私服も半袖だけど、つばきは隠そうとはしなかった。

そしてカンナが普通に接するから、俺も今までの日常を守った。
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