もふもふになっちゃった私ののんびり生活 ~番外編

その3 尻尾の〇〇

「キャンッ!!」

 それは突然だった。

 木枯らし病が収まり、元通りになった街の商店街をまだ見ぬ食材を求めてあちこち見ながら歩いていると、いきなり尻尾に衝撃が走ったのだ。

「キュゥーンッ……」

 思わず出た声は鳴き声で。ヴィクトルさんが慌ててしゃがむのが見えたが、一体何がどうしたのか?

「あらあら、すみませんっ!!ほら、オーズ、おねえちゃんの尻尾から手を放しなさい。獣人の人の尻尾は敏感だから触っちゃダメ、って教えたでしょう?」
「きゃあ!でも、おねえちゃんのしっぽ、ふわふわ!」

「キュフッ!」

 私のふさふさの長い尻尾をぎゅっと握っていた小さな手が、さわさわと動いて尻尾を撫でる。その瞬間、ぞわっとしたおぞけが背筋を駆け上がった。

「ああ、放してやってくれ。いくらふさふさで触ったら気持ち良さそうでも、尻尾は触ってはダメだ」

 全身鳥肌になりながらブルブル震えあがっていると、ヴィクトルさんが子供の手から私の尻尾を奪回に成功したようで、手が離れてブワッと膨らんでけば立っていた尻尾が元に戻ると同時にしゅんと私の腰に巻きついた。
 外套を着ていなかったら、長い尻尾が私の足の間から前へ来ていただろう。

 恐る恐る振り返ると、まだよたよたと歩き始めたばかりの小さな子供がヴィクトルさんの手から恐縮して頭を下げっぱなしの母親の手に渡されていた。

 本当にすみませんでした、とペコペコ頭を下げて親子が去っても、私の尻尾はだらりと下がったままで。
 顔なじみの商店の人達にまで心配されたが、街の外へ出ても尻尾が上がることは無かった。



「すみませんでしたっ!!」

 そして今、森へ続く道を歩き、街が遠くなった場所でヴィクトルさんに深々と頭を下げていた。
 私は今まで自分の尻尾を誰にも触らせたことは無く、人混みで人に当たったり、自分からポンと叩いたりはしたことはあったが、今までは接触をそこまで気にしたことは無かったのだ。

 だから知らなかったのだ。あんなに尻尾の感覚が敏感だったなんて!!

 自分で触ってブラッシングしたり、もふもふしていても全く気にならなかったのにっ!!

 そういえば本で獣人のことに書いてあったのを読んだ時、耳と尻尾を触れさせるのは親しい人だけだと書いてあって、小説とかの設定と一緒なんだー!と思ったことがあったのに、自分のことを当てはめて考えていなかったなんて……。

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