夏の終わり〜かりそめの恋人が、再会したら全力で迫ってきました
1章
「どういうこと?」
春ののどかな週末のお昼時、突然、見知らぬ老紳士がやって来た事で、私の人生が一変する話合いが始まった。
私の祖父だと名乗る老紳士は、羽織袴姿の威厳ある姿勢で、人の上に立ち命令することに慣れてる様子で話しだした。
「お前に久世家の養女になれと言っている。わしの跡継ぎになり、婿をとれ。なに、既に婿候補は絞ってある。ただ、お前は婿を選び、跡継ぎを産んだ後は好きに生きろ。後は、わしが後継者を育てるからの」
話しだした内容に、素直に「はい、そうですか」と頷ける内容ではない。
まして、初対面である。
「お父さん、お母さん、この人、本当に私のおじいちゃんなの?」
祖父だと名乗る老紳士、いや老害に萎縮している両親に問いただした。
「亜梨沙のお爺さまで間違いないよ」
温和で、なんとかなるさが口癖の少し頼りない父がやっと口を開いた。
「お父さん、亜梨沙に久世を背負わせるのは反対です。どうか考え直してもらえませんか?」
「久世の性を捨て、勝手に家を出て婿養子になったお前が、わしに意見するのか?わしが死ねば、久世の親戚連中がおとなしくしとらんだろう。わしが目を光らせているうちはいい。だが、わしが死ねば、久世家がどうなるか見えている」
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