シングルマザー・イン・NYC
「ニューヨークを発つ日が決まった」

事故から十日。
病院の廊下を私と並んでゆっくり歩きながら、篠田さんが言った。

「いつ?」

「明後日」

「随分、急だね」

篠田さんは笑った。

「もうとっくに帰国してるはずだった。あの日、ニューヨーク歴史協会を視察するのが今回の最後の仕事で」

そう。
本当なら、事故の翌日の便で東京に戻る予定だったのだ。

腕の怪我だけでなく、肋骨を二本折り、打撲が数か所。
入院して数日間、ほとんど動けなかった篠田さんは、一週間たってようやく私と散歩できるまでに回復した。

とはいっても、せいぜい院内のカフェに行くくらいなのだけど。

私は毎日二回、お見舞いに通っている。
一回は一人で、もう一回は慧と一緒に。

アレックスとお客様達には申し訳ないのだが、少しでも長く篠田さんと一緒にいたくて、やや強引にスケジュールをやりくりして。
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