シングルマザー・イン・NYC
「――やったな、希和」

地下鉄に乗ると、篠田さんが言った。

「うん。まさかオペラがご縁でお客さんになってくれるなんて」

「それもそうだけど。あの夫婦、政財界の大物だよ」

「――そうなの?」

「そう。デイビッド・ローゼンタールはいくつもの会社を経営する富豪。プラヤホテルに住んでるんだ」

「あのホテル、住めるの?」

富豪なのも驚きだが、ホテルに住んでいるとは。

「うん、住める。十五年くらい前だったかな、改修してコンドミニアムにして分譲した部分がかなりあるんだ」

そうなんだ。

「奥さんのカミーユも人脈の広さで有名」

「へえ。さすがニューヨーク、すごい人たちがいるねえ」

その時の私はまだ、自分がものすごい大物に出会ったという実感がなかったのだが、カミーユさんは後々、私の人生に大きな影響を及ぼすことになるのだった。
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