シングルマザー・イン・NYC
「きれいだねー」

「ああ」

ツリーを見上げる篠田さんの息が白い。
雪はほとんど降らないが、東京よりはずっと寒いのだ。

今日、私は定休日で、篠田さんに会いにミッドタウンに来ている。

篠田さんは十月にこの街の法律事務所で働き始め、一年の短期ではあるのだけどかなりの忙しさで、私たちは隙間を縫うようにして会っている。

今も、ランチタイムに外に出られるからと言うので、三十分で急いで昼食をとり、クリスマスツリーを見るという、駆け足デートだ。

「その後もカミーユさんはお店に来てる?」

「うん。最近特に多い。週一回はくるかな」

チャリティーイベントやパーティー前に、髪を整えに来てくれるのだ。

「チップ、すごいんじゃない?」

「……うん」

米国はチップ文化で、レストランはもちろん、美容室も同じだ。
相場は大体20パーセントだけど、カミーユさんは30パーセントはくれる。

「しかも、お友達もたくさん紹介してくれて。私、予約困難な美容師になりつつあるんだよね」

「希和、独立できるんじゃない?」

「……どうかな」

「頑張れ」

「うん……」

励ましてくれるのは嬉しいが、篠田さんは一年後には帰国してしまう。

私が独立してお店を持つということは、こっちに残るということだ。
将来について、どう考えているのだろう。

「そろそろ時間だ……仕事戻りたくないな」

「それはまずいでしょ」

篠田さんは答えず、ふっと笑った。

そしてコートのポケットに手を入れると、濃紺のビロードの小箱を取り出し、ふたを開けた。
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